最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナ:「医療崩壊」ヨーロッパの教訓からいま日本が学ぶべきこと

Lessons from the European Lockdown

2020年3月29日(日)13時30分
國井修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

イタリアの感染者数が200人に迫った2月23日、ジュセッペ・コンテ首相は北部の11自治体を封鎖し、住民約5万人の出入りを禁止した。北部2州の学校閉鎖、映画館などの閉鎖が決まり、サッカーのプロリーグ、セリエAの試合も延期となった。

だが、そんな中でも域内にあるスキーリゾートには多くの人が集まり、夕食前に軽食とお酒を楽しむ「アペリティーボ」でバーはにぎわっていた。与党の政治家でさえ、新型コロナに負けずに楽しもう、と言わんばかりにグラスを傾ける姿をSNSに載せ、その数日後に感染が確認された。

感染者が3000人、死者が100人を超えた3月4日には政府は緊急閣議を開き、イタリア全土で学校や映画館などの閉鎖を含む首相令を発し、国民に抱擁や握手をやめるよう呼び掛けた。10日には全国で外出禁止、さらに食料品店と薬局を除く全ての店舗の閉鎖と在宅勤務を指示した。

次第に対策を強硬化していった理由として、人々の意識・行動が変わらなかったことがある。イタリア人は人と交わるのが大好きで、会えば握手や抱擁、両頰にキスをし、エスプレッソやワインを飲みながら顔を突き合わせて会話を楽しむことが多い。いまだに3世代家族も多く、若者と高齢者の接触は頻繁だ。

このような「濃厚」な人間関係は、感染流行にとって格好の条件であり、拡大阻止に必要な「社会的距離」を実行するには、個人の意識や行動の変容が必須である。しかし、イタリアではそれも難しく、感染が拡大、オーバーシュート(感染爆発)してしまった。

欧州ロックダウンの道程

こうしたイタリアの状況と対応を見ながら、各国首脳が動いた。スペインでは3月14日、ペドロ・サンチェス首相が感染拡大に伴って「警戒事態」を宣言し、全土で移動を制限した。罰金や禁錮など罰則規定もあり、警察が全国の市街地や駅でパトロールを開始した。

フランスでは12日にエマニュエル・マクロン大統領が「過去1世紀に起きた保健衛生上の最大の危機」として全国の託児所から大学までを閉鎖。高齢者や持病のある人の外出自粛などを求め、16日には「これは戦争だ」と何度も繰り返しながら、外出禁止のみならず、親族や友人との集会も禁止し、国境も封鎖した。

ドイツでは11日にアンゲラ・メルケル首相が1000人以上の集会の中止、16日には小売店、劇場、スポーツ施設などの閉鎖、飲食店の営業時間短縮と客の人数の制限などを要請したが、21日以降には全ての飲食店を営業禁止、幼稚園や学校も休校、22日には3人以上の集会も禁止した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中