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感染症対策

ミャンマー、新型コロナウイルス初の感染確認 スー・チー自ら手洗いで感染予防訴え

2020年3月24日(火)19時10分
大塚智彦(PanAsiaNews)

スー・チー自ら手洗い模範

そうしたなか、ミャンマーの実質的な国家指導者であるアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相は16日にテレビ演説して感染防止を国民に呼びかけ、政府として全力でコロナウイルス対策に取り組む姿勢を示したばかりだった。

テレビ演説の中でスー・チー最高顧問はコロナウイルス対策に当たる委員会を国家レベルに格上げして自らそのトップとして指揮することを明らかにするとともに、「工場などの稼働を継続して労働者の失業を防ぐことが必要だ。さらにミャンマー経済への影響を最小限とするための減税や金利引き下げを行いたい」との方針を示していた。

さらに動画サイトではスー・チー最高顧問が自ら出演して、石鹸で丁寧に手を洗う様子を公開。国民に十分な手洗いの励行による感染予防を呼びかけていた。

生活習慣「キンマ」が感染拡大の温床に?

ミャンマーでは主に成人男性が煙草と並ぶ嗜好品として「キンマ」を常用することが多い。キンマはヤシ科のビンロウジを乾燥させたものとキンマの葉に水溶性石灰を塗ったものを一緒に口中で噛むもので、常習性が強いとされる。キンマに含まれる石灰の影響で噛んでいると口中、歯は真っ赤に染まり、溜まった赤い唾液は道端に吐き捨てられる。

このキンマによる赤い唾液は街中の道端のあちこちに吐き捨てられ、これがコロナウイルスの感染拡大につながる可能性も指摘されている。

ASEANでは3月2日まで感染者ゼロを継続していたインドネシアが初の感染者確認以降、感染者、死者が急増(24日現在感染者579人、死者49人)しており、政府は感染拡大防止に振り回されている。

初の感染者が確認されるという事態を受けてミャンマーでも今後、感染者の発見や治療と感染拡大防止に向けた政府主導による官民挙げての取り組みが急務となることは明らかで、スー・チー最高顧問の指導力、手腕が試される事態に直面している。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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