最新記事

ウイルス

新型コロナウイルスの「0号患者」を探せ!

Scientists are still searching for the source of COVID-19: why it matters

2020年3月17日(火)19時05分
ワンダ・マーコッター(南ア・プレトリア大学動物原性感染症センター所長)

こうした誤った情報を煽ったのは報道だった。メディアは当初、新型コロナウイルスと市場や動物の間につながりがあると示唆する報道を行っていたが、それを裏付ける情報は出ていない。

それでも科学者たちは、その線を調べ続けている。とりわけコウモリは複数のコロナウイルスの自然宿主(ウイルスが最初に寄生した動物)と考えられているため、注目されている。

過去の調査では、SARSコロナウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスをはじめ、感染症を引き起こしやすい複数のコロナウイルスが、コウモリの保有するウイルスと遺伝的に似ていたことが分かっている。このように、コウモリが貯め込んだ多様なウイルスが、時として(多くの場合は別の動物を介して)人に飛び移る可能性があるのだ。

たとえばSARSコロナウイルスを保有している宿主を調べた複数の調査では、中国に生息するキクガシラコウモリがそれに最も近いウイルスを保有していたという結果が示された。それがジャコウネコを介してヒトに感染したとされている。そして1月には新たに、雲南省でキクガシラコウモリから採取されたウイルスと新型コロナウイルスの遺伝子配列が96%の高確率で一致したというデータが公表された。これとは別の報告書も、新型コロナウイルスとSARS関連のコウモリコロナウイルスには89%の類似性があると指摘した。

突然変異で問題はさらに複雑に

だがこうした「類似性」だけでは、現在の感染拡大を引き起こしているウイルスの発生源を特定するには不十分だ。

重要な問題は、新型コロナウイルスとコウモリコロナウイルスが「かなり似ている」ように見えるのが事実でも、突然変異率を考慮に入れると話は複雑になる。ウイルスを媒介する中間宿主がその突然変異に関与している可能性も高い。実際、コウモリに寄生する多くのウイルスは、まず別の動物に寄生して威力を増した後にヒトに飛び移り、感染を拡大させることが分かっている。

たとえば02年と03年に流行したSARSコロナウイルスの場合は、ジャコウネコがウイルスを媒介したと特定された。今回のウイルスでは、センザンコウが中間宿主ではないかと指摘する声があがっている。

ウイルスが動物からヒトにジャンプするのを阻止できれば、何十億ドルもの医療費が節減でき、多くの人の命を救える可能性がある。

今後も野生生物の間では、さまざまなウイルスが飛び交い続けるだろう。将来の感染拡大を防ぎ、健全な世界経済を維持していくためには、ウイルスの多様性やそれを保有する種、それらの種がどこに生息しているのかを知り、人間のどのような行動が感染リスクを増大させる可能性があるのかを知っておくことが不可欠だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中