最新記事

野生動物

インドネシア、ゾウに襲われ兵士死亡 村人に野生生物との共生教えていた男がなぜ......

2020年3月16日(月)17時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

スマトラゾウが兵士を踏みつけて死亡させた事件現場 KOMPASTV / YouTube

<豊かな自然環境が経済発展のため日々切り開かれている東南アジア各国。人間と野生動物の共存は可能なのか>

インドネシアのスマトラ島に生息するスマトラゾウは自然保護団体などから絶滅の危機に瀕した希少動物の指定を受けて密猟や捕獲が厳しく禁止されている。そのスマトラゾウがインドネシア軍の兵士1人を踏みつけて死亡させるというショッキングな事件が起きた。

この兵士は地方の小さな集落に村落指導のために駐在し、村人たちに対してスマトラゾウを含めた野生動物との共存の仕方などを指導していただけに、ゾウによる兵士殺害のニュースは全国紙でも伝えられる関心を集めた。

インドネシアを代表する英字紙「ジャカルタ・ポスト」などによると、スマトラ島のベランティ村で5日、村の住民の居住地域に1頭のスマトゾウが近づいてきたために村人とともに同村に村落指導員として駐在していた陸軍のイスカンダール・スルカルナイン軍曹(49)が協力してゾウを村はずれのジャングルの方向に誘導しようとしていた。

ところがこのゾウが突然村人たちの方に向かって襲い掛かってきたため、村人たちは一斉に逃げた。ところが先頭になってゾウを誘導しようとしていたイスカンダール軍曹だけが逃げ遅れてゾウに踏みつけられてしまったという。

軍は特別昇任させて陸軍葬で待遇

村人たちは現場に戻ってゾウをなんとかジャングルの方に誘導し、イスカンダール軍曹を救出したが、すでに手遅れで死亡が確認されたという。

インドネシア陸軍当局は、イスカンダール軍曹が村人を助けようとして自ら犠牲になったとして、その功績を讃えて上級曹長に特別昇任させるとともに、陸軍葬で出身地である同州バニュアシン地方の公共墓地に5日のうちに手厚く葬られたと報じている。

報道によればイスカンダール軍曹は同村に駐在しながら、警察の駐在員のように村人の普段の生活支援や相談にのるなどしながら、ゾウをはじめとする周辺地域に生息する野生動物との共存の仕方を指導していたという。

インドネシア軍は1998年にスハルト長期独裁政権が崩壊するまで軍が本来の国防・治安維持という任務に加えて全国地方自治体の隅々まで関わり、政治・経済・社会などのさまざまな問題で人々を支援するいわゆる「2重機能」の役割を果たしていた。

その後の民主化の過程で軍と警察の役割分担が明文化され、国民の生活支援、国内治安維持は原則として警察の任務とされてきた。しかし現在も陸軍には最小単位の組織として「Babinsa」と称される「村落指導下士官」が存在し、地域住民と密接な関係を築いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ガザ暫定統治機関の人選を来年早々に発表

ワールド

トランプ米政権、UNRWAに制裁検討か テロ組織指

ワールド

米国防権限法案、下院で可決 上院も来週通過の見通し

ワールド

トランプ氏「CNNは売却されるべき」、ワーナー買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中