最新記事

監督インタビュー

話題作『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督が語るフランスの現実

2020年3月7日(土)19時00分
大橋 希(本誌記者)

――では、『レ・ミゼラブル』を見て、「状況を改善しなければ」と言ったエマニュエル・マクロン大統領の方がいい?

リ:悪人のレベルはもうちょっと低いな。マクロンは銀行家出身なので、ビジネスマン的な手腕が目立っている。

――映画は18年のサッカーW杯でフランスが優勝し、人々が歓喜に沸く場面から始まる。ただこのとき、代表チームに移民系の選手が多いことへの揶揄が、98年の初優勝のときより多かったのでは?

リ:フランス社会の状況はずいぶん変わった。98年当時はジャック・シラクが大統領で、彼はフランス国民に愛されていた。その頃は今のようなイスラム過激派のテロが起きていないし、穏やかだった。その後に出てきたサルコジはさっき言ったとおりだし、フランソワ・オランド大統領とのきはシャルリ・エブド事件があった。マクロンは富裕層優遇だしね。98年はそういう(社会の分断という)問題が顕在化していなかった。

webc200307-france02.jpg

映画は2018年のサッカー・ワールドカップでフランスが優勝し、人々が歓喜に沸く様子から始まる (C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

――現場の雰囲気はどうだった?

スティーブ・ティアンチュー:監督が育った街と、自分が育った隣の街は似たところがいっぱいある。両親の背景とか、子供たちの様子とかね。そして夢と野望をもって、彼は監督の道を、僕は役者の道を歩んでいる。そんな同じような価値観を持つ人間と一緒に仕事をすることは素晴らしいことだ。

それに今回の作品には技術スタッフにしても、俳優にしても、ベテランばかりではなく、これからキャリアを積んでいこうという人たちが多かった。自分たちの実力を証明しなければならない、失敗しちゃいけないといというエネルギーのあふれた現場だった。

――自分の育った町で、リラックスして撮影できたと思う。

リ:今回は住民200人くらいを動員したが、みんな自分たちの町の映画だと思って協力してくれた。

ティアンチュー:例えば、ある団体が炊き出しをしてくれたり、警備や交通整理してくれたり、いろいろなところでみんなが協力してくれた。住民が力を合わせて作った映画だと思う。

――子供たちの演技もよかったが、彼らはプロの子役ではない。

リ:みんな街の子供たち。今まで演技をしたことのないような彼らの中から、ひょっとしたら未来の俳優が生まれるんじゃないかと、そういう期待の下にあの子たちをキャスティングした。

――映画の中の警官たちの行動に驚かされるが、あなたの身近にいる警官もああいう感じなのか?

リ:本当にこういう人たちがいるんですよ。治安を取り締まる犯罪防止班(BAC)はだいたい3人組でパトロールする。大抵はベテランの嫌なやつが1人いて、それをなだめる役の中堅どころがいて、新入りがいる。おそらくモンフェルメイユの人なら映画を見て、「ああ、うちの辺りにもこういうやつがいる」って思うはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コンゴ・ルワンダ、米仲介の和平協定に調印 鉱物巡る

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中