最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは人類への警鐘──感染症拡大にはお決まりのパターンがある

THIS OUTBREAK IS A WAKE-UP CALL

2020年3月6日(金)15時40分
マーガレット・ハンバーグ(米科学振興協会理事長)、マーク・スモリンスキー(エンディング・パンデミックス代表)

震源地の武漢を追って症例が発生したタイではタイ国際航空が旅客機の座席全てを消毒 PATIPAT JANTHONG-ECHOES WIRE-BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

<パンデミックを完全に防ぐことは将来の課題、過去数十年の感染症から教訓を学ばなければ今後も同じような事態におちいることに>

2011年、中国で始まった新型ウイルスMEV1の感染は瞬く間に世界中へ広がり、アメリカだけで250万人、世界全体では2600万人が死亡した──というのはフィクション。地球規模の疫病がもたらすパニックを描いたハリウッド映画『コンテイジョン』(2011年)の筋書きにすぎないのだが、いま私たちは本物の「中国発、世界行き」の疫病に直面している。しかも映画と現実には不気味な共通点がある。この殺人ウイルスが、動物界から無防備な人間世界に「ジャンプ」したという事実だ。

今回の新型コロナウイルス(2019nCoV)の感染拡大は、想定外とも想定内とも言える。ここ数十年に起きた未知のウイルスによる感染症の拡大には、お決まりのパターンがある。動物の体内でおとなしく暮らしていたウイルスが、ある日突然、なぜか人の体内にジャンプしてくるのだ。今回はそれが武漢の海鮮市場で起きたとされるが、別な動物(コウモリなど)を媒介として人に感染する場合もある。

感染した人が発症すると、その人から周囲の人へと感染が広がる。それでも症状が軽かったり、症状が既存の病気と似ていたりすると、新たな感染症とは気付かれないままに時が過ぎていく。

パニックを恐れて政府が情報を隠そうとすれば、国民は何も知らないままということもある。それでもある段階で、誰もが感染の拡大に気付かされる。すると政府から警戒しろと命じられるのだが、その頃には危機が世界中に広まっている。

今回の危機をもたらしたのはコロナウイルスだ。普通の風邪もコロナウイルスが原因だが、今回のは新型だから手ごわい。しかもかなりのペースで人から人へと感染している。概して症状は軽いようだが、既に多くの死者が出ている。高齢者や、持病を抱えて免疫力の衰えている人などは要注意だ。

深刻な事態だが、あいにく私たちは現時点で、このウイルスの正体や感染経路について確かな知識を持っていない。このウイルスが増殖の過程で(不幸なことだが必然的に)突然変異を起こした場合にどうなるかも、私たちは知らない。

加えて、こうした感染症の蔓延のたびに繰り返される私たちの社会の反応(最初は警戒するけれど、患者が減ると安心してしまう)にも問題がある。2002〜03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2009年のH1N1型インフルエンザ、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)、2014年のエボラ出血熱のときもそうだったが、政府も世論も「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のが常だ。

瞬時に遠くまで拡散する時代

そんな対応を繰り返していれば、本来なら予防できるはずのウイルスが蔓延し、さらに多くの命が失われることになる。その過程では突然変異の機会も増えるから、より致死性が高く、より感染力の強いウイルスが出現するリスクも高まる。

そんなリスクを、私たちは背負いきれない。

原因不明の新型肺炎27例を確認したと、中国政府が世界保健機関(WHO)に報告したのは昨年の12月31日だった。翌日には、患者の多くが直前に訪れていたという武漢の海鮮市場が閉鎖された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中