最新記事

新型コロナウイルス

クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実

A DAUNTING BUT DOABLE MISSION

2020年3月4日(水)16時00分
國井修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

では、結局、14日間の停留期間で船内での感染拡大は防げたのか。日本政府の対策は間違っていたのかについて、議論が起きている。

途中船内に入り、下船させられたため、その状況をYouTubeで発信した岩田健太郎教授(神戸大学)、それに対して事実関係の違いを指摘した高山義浩医師のフェイスブックのコメントが世間を騒がせた。2人とも友人同士で、私もまた彼らをよく知っている。

2人とも、この危機的状況から日本を救うために尽力したい、という熱い思いは同じだった。だが、なぜか公然と食い違いを指摘しなければならない結果になった。

もちろん、2人とも大人なので、その後は冷静に意見交換をしていたようだ。一方、外野は感情的になり、彼らに対してさまざまな非難や中傷を浴びせている。

岩田氏の問題提起はよく分かる。正論とも言える。ただ、オペレーションはそう簡単なものではない。特に船内という特殊環境で、その船は外国籍、言葉や文化の異なる3000人以上の乗客・乗務員を守るために「見えない敵」と闘う。まさに人類史上経験のない、最悪のシナリオであった。

「分かっちゃいるけどできない」ことをどう実行するか。毎日が闘いであり、苦労の連続である。実際に参加した友人や知人の苦悩を聞いて、まさにそう思った。

「見えない敵」との闘い方

私は96年の在ペルー日本大使公邸占拠事件(600人以上が人質になった)や08年のミャンマーでのサイクロン「ナルギス」災害(13万人以上の死者・行方不明者)、11年の東日本大震災での宮城県や石巻市の現地対策本部など、さまざまな緊急事態で多様な組織・機関・セクターを巻き込むオペレーションに参画したが、専門知識や技術を持っていることと、それを実際にオペレーションに落としていくことは別の話だと痛感した。

これらの経験から、危機管理や緊急対策の成功の10%は戦略(知識や専門技術を含む)、90%はオペレーション(ロジスティクスや調整も含む)に懸かっていると言える。ただし、この10%の戦略がきちんと作られていたのか、活動目標や実施計画、作業手順などが共有されていたのか、それに沿ったオペレーションができていたのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ステファニク下院議員、NY州知事選出馬を表明 トラ

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ

ワールド

イラン大統領「平和望むが屈辱は受け入れず」、核・ミ

ワールド

米雇用統計、異例の2カ月連続公表見送り 10月分は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中