最新記事

新型コロナウイルス

クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実

A DAUNTING BUT DOABLE MISSION

2020年3月4日(水)16時00分
國井修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

さらに、24時間常に誰かが動いていなければ成り立たず、船長は絶大な権限を持ち、乗客と乗務員との関係性が難しいなど、オペレーションも一筋縄ではいかない。特に、汚染水処理のために定期的に港外に出なければならないため、その間の乗客へのサポートが途切れないよう医療支援拠点を船内につくるなどの措置も必要となった。

過去にも、大型客船内での感染症流行がいくつか報告されている。その1つが、2000年にオーストラリアのシドニーと仏領ニューカレドニア島の首都ヌメアを往復したクルーズ船だ

季節性インフルエンザが船内に持ち込まれ、1500人以上の乗客・乗務員のうち40人が医療施設に入院し、2人が死亡した。その後の調査で、インフルエンザ様症状を示した人は37%に及んだという。13日間のクルーズ期間に、瞬く間に広がったのだ。

このような船舶のリスクを考えると、早急に全員を下船すべきだった、との批判は正当に聞こえる。私も初めはそう思った。対策担当者もその可能性を探った。しかし、頭で考えるほどオペレーションは生易しいものではなかった。

人類史上初の出来事だった

その理由として、まずこのクルーズ船は英国籍であり、横浜港に入港する2月3日までは介入できず、2月6日の接岸後も船長と船会社の意向を尊重しなければならなかった。

下船のため、外部の宿泊施設や搬送方法を検討したところ、乗客・乗務員の数が数百人規模であれば実施可能であったが、3000人以上のオペレーションは不可能であった。風評を恐れて、受け入れてくれる民間施設はなかなか見つからない。国や公共の施設にも限りがあった。

搬送するために必要な数のバスもチャーターできない。個人間の感染防御対策を考えると、この搬送自体にリスクがある。2月5日には感染者10人が確認され、検疫開始前に既に船内で感染が拡大していたことが判明した。バスの移動でさらに拡大する恐れがあった。

仮に下船させれば、症状がないからと、検査もせずに勝手に日本国内または海外を公共の交通機関で移動する者も出てくる。法制度上、一度下船させると、検疫のためにどこかに強制的に停留させることはできない。3000人以上の行動を追跡することも難しい。

もしあの時下船させていれば、現在よりも国内外に感染が拡大した可能性がある。そこで下船を諦め、可能な限り、隔離と昼夜を徹した感染者・急患の搬出を継続することになった。苦渋の決断だったようである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中