最新記事

世界経済

世界経済を狂わせる新型コロナウイルスの脅威──最大の影響を受けるのは日本

FEARS OF A GLOBAL RECESSION

2020年2月28日(金)17時15分
キース・ジョンソン

シンガポールは今年の成長見通しを下方修正し、経済活動が失われた分を数十億ドル規模の景気刺激策で埋め合わせる計画だ。タイも同様に成長見通しを引き下げ、マレーシアもダメージを食い止めるために景気刺激策の導入を検討している。

しかし最大の難関に直面しているのは、中国以外で最も感染者が多い日本(クルーズ船旅客などを含む)かもしれない。日本では2019年第4四半期の経済成長率が約6年ぶりに大幅に縮小。トヨタや日産などの自動車メーカーは中国と国内の工場で生産に影響が出ている。中国からの観光客も大幅に減っている。

景気後退に陥るリスクが高まるなか、日本政府は昨年末に大規模な経済対策を策定した。全面的な危機を回避するには、さらに政府支出を増やして景気を刺激する必要があるかもしれない。

米欧貿易摩擦が激化する恐れ

新型コロナウイルスは、中国からさらに離れた場所にも被害をもたらしている。中国と欧州を結ぶ巨大な広域経済圏構想「一帯一路」関連のプロジェクトに東南アジア周辺で取り組んでいる中国企業は、サプライチェーンや従業員不足の影響で、今後確実にプロジェクトの遅延やコスト高騰に悩まされる。中国の最大の貿易パートナーであるブラジルでは、感染拡大の影響で年内に経済成長が減速に向かうと予想されている。

さらに中国経済の低迷は、中国への農産品やエネルギー、各種製品の輸出を大幅に増やそうとしているアメリカの足も引っ張る可能性が高い。そうなれば、経済的に逼迫しているアメリカの農業地帯や工業地帯の回復が遅れることになりかねない。

ヨーロッパも懸念を強めている。既にフォルクスワーゲンなどの自動車メーカーでは、中国国内にある工場の生産に影響が出ており、サプライチェーンの一層の混乱がヨーロッパ域内の工場にも影響を及ぼすのではないかと懸念されている。

ドイツの投資家は最悪の事態を恐れている。昨年のドイツ経済は重要な自動車部門の見通しが暗かったため、製造部門全体に勢いがなかった。ドイツの欧州経済研究センターが18日に発表した2月の景気期待指数は、投資家心理の冷え込みを反映。投資家は新型コロナウイルスの感染拡大が世界貿易に大きな悪影響をもたらし、輸出主導のドイツ経済の回復を頓挫させると懸念している。

これを受けてユーロは一時的に、対ドルでほぼ3年ぶりの安値に下落。ドナルド・トランプ米大統領は、価値の下落した外貨からの不公平な競争に強硬姿勢を取り続けている。アメリカとヨーロッパの貿易摩擦が、新型コロナウイルス禍によってさらに激化する恐れも出てきた。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年3月3日号掲載>

【参考記事】新型コロナウイルス感染拡大がもたらす株価暴落と世界封鎖
【参考記事】中国を笑えない、新型ウイルスで試される先進国の危機対応能力

20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州、現戦線維持のウクライナ和平案策定 トランプ氏

ビジネス

ワーナー、パラマウントの買収案拒否 完全売却の可能

ビジネス

NY外為市場=円安/ドル高進む、高市新政権の財政政

ビジネス

米TI、第4四半期見通しは市場予想下回る 米中貿易
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中