最新記事

日本企業

ソフトバンク、フランチャイズの携帯ショップ「強制閉店」の非情 一方的通知は「優越的地位の濫用」との指摘も

2020年2月21日(金)18時50分
山田 雄一郎 奥田 貫(東洋経済 記者)*東洋経済オンラインからの転載

て低評価になると2カ月後から「閉店猶予期間」となる

例えば、2020年2月にある販売店の評価がDとなり、直近6カ月で3回目となって低評価店舗に認定されたとしよう。その場合、2カ月後に「商流変更・閉店」の勧告を受け、以下のように2020年10月末までが「閉店猶予期間」となり、店をたたむことを強いられる(新店や移転後1年以内の店舗などは、低評価店舗施策の対象外になる)。

関係者によると、この運用が始まったのは2016年から。販売店に対して定期的に配布されている店舗施策の資料に新たなルールとして盛り込まれたという。問題は、この閉店ルールが販売店のオーナー側との合意なしに一方的に導入されたことだ。ある大手販売店の幹部は「ソフトバンクの施策変更は、(現在の)強制閉店ルールも含めて事前通告や相談はまったくない。いつもいきなりで、合意もない」と証言する。

ソフトバンクと販売店オーナーが合意して取り交わす「代理店委託契約書」にはこの「商流変更・閉店ルール」は明記されていない。同契約書71条には「甲から契約解除ができるのは委託業務の履行実績が一定の期間を通じて不振である等相当の理由があると甲が判断する場合、1カ月以上前に予告することによって契約を解除できる」と書かれている。「甲」とはソフトバンクのことだが、何をもって「一定の期間を通じて不振」とみなすのかは記されていない。

あからさまな優越的地位の濫用

冒頭のやり取りにある販売店オーナーがソフトバンクの販売店を始めたのは、現在の閉店ルールが始まった2016年より何年も前。店舗開設のために銀行から億円単位の借り入れもしているという。それだけに、「代理店契約書に『D評価が3回なら強制退店』と最初から書いてあったなら、そんなリスクの下では契約を結ばなかった。ある日突然、一方的にソフトバンクが決めたルールを押し付けられた。当時から抗議しているが全く取り合ってもらえていない」と憤る。

フランチャイズ問題に詳しい中村昌典弁護士は、「契約内容を変更するなら変更合意書が必要だが、それがないのは問題だ。これほどあからさまな優越的地位の濫用はほかに例がない。民法の一般条項に反しており、公序良俗違反、信義則違反、権利の濫用にあたる」と指摘する。

中村弁護士はセブン-イレブンをはじめとするコンビニエンスストアのフランチャイズ問題に力を入れて取り組んでいるが、「コンビニでもこんなひどい閉店のさせ方をしていない。ソフトバンクが代理店に強いていることは1ミリたりとも正当化できない」と批判する。

通信業界のルールのあり方について議論する総務省の有識者会議のメンバーで、野村総合研究所パートナーの北俊一氏は「(店舗運営のルールで)同じような問題を抱えるコンビニ業界に対して、経済産業省が研究会を開催しているが、総務省でも早急に議論を開始すべきではないか」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中