最新記事

世界経済

今の資本主義には規律も公平さもない、若者たちが憤るのは当然だ

CONFESSIONS OF A MONEY MAN

2020年2月12日(水)18時30分
サム・ヒル(作家)

人間の脳は相対的な富の差に強く反応する KTSIMAGE/ISTOCKPHOTO

<アメリカの若い世代が社会主義に傾倒するのは民主党左派の影響ではなく、格差批判を敗者の「負け惜しみ」と切り捨ててきた資本主義者の責任だ>

筆者は資本主義者だ。なぜなら社会主義を知っているからだ。学生時代は社会主義に傾倒したが、外国で長く働いてきたおかげで社会主義の失敗をつぶさに見ることができ、それで転向した。

ところが今、なぜかアメリカで社会主義がもてはやされている。なぜか。社会主義的な政策を掲げる民主党左派のせいではない。私たち資本主義者の責任だ。

今の資本主義の在り方は間違っている。そもそも資本主義の根底には、見識ある市民と自由市場が富と機会の最適な配分を生み出すという思想がある。だから社会主義経済が1970年代後半に崩壊し始めると、資本主義者は政府による市場の規制など無用だと考え、以後は一貫して、この方向に舵を切り続けている。

結果、2018年はこの半世紀で米司法省が反トラスト法(独占禁止法)を適用した件数の最も少ない年になったという。市場の「見えざる手」を信じたアダム・スミスでさえ、資本主義にも一定のルールが必要と論じていたのだが。

一定の規制がなければ、資本主義も縁故主義や政治の私物化の罠に落ちてしまう。しかも私たちは社会システムを改ざんしている。勝者が少なく敗者が多いのは資本主義の必然だと言い張り、特定の勝者が必ず勝つように仕組んである。教育制度は二重構造で、下から上に乗り移るのは至難の業だ。税制は資本家に甘く、彼らの富は彼らに成功をもたらした社会に還元されない。法律は業界や企業を真の競争から守る一方、弱者同士を競わせている。

規律正しくも公平でもない

社会主義に対する私たちの態度も偽善的だ。カール・マルクスが「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」と書いたように、社会主義の肝は政府による富の再配分だ。アメリカの資本主義も富を再配分するが「必要」に応じてではない。政治家の欲しがる「票」に応じて配る。田舎や農村部へ、高齢者へ、ロビー活動に巨額の資金をつぎ込む製薬業界へと資金は流れる。

だから若い世代は、「ベビーブーム世代は『社会主義』の恩恵に浴したのに、自分たちにはそれがない」と憤る。こうした偽善への不満は日増しに高まっている。

経済的不平等への批判にも、私たちは耳を塞いできた。資本主義の登場以来、世界中でほとんどの人の暮らし向きが改善されてきたのは客観的事実だ。しかし、それを実感している人は少ない。例えば近所同士のA、Bに筆者がそれぞれ100万ドルと1000万ドルを配ったとしよう。Aは素直に喜ぶだろうか。Bのほうがなぜ多くもらったのかと、私を問い詰めるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中