最新記事

動物

アザラシが水中で拍手して、コミュニケーションすることが明らかに

2020年2月7日(金)17時50分
松岡由希子

「ハイイロアザラシの拍手は非常に音が大きく、最初は信じられなかった」Ben Burville-Telegraph-YouTube

<水中で泳ぐ野生のハイイロアザラシのオスが前ビレで拍手し、銃声のような「パン」という音を鳴らす様子を動画で初めてとらえた。>

クジラやアザラシといった海洋哺乳類は、鳴き声や口笛で仲間とコミュニケーションをとったり、足ヒレや尾で水面を強く弾いてシグナルを送ったりすることで知られている。このようなコミュニケーション形態に加えて、ハイイロアザラシは、水中で拍手してコミュニケーションすることが明らかとなった。

前ビレで拍手し、銃声のような「パン」という音を鳴らす

英ニューキャッスル大学の客員研究員ベン・バーヴィル博士は、繁殖期にあたる2017年10月17日、イングランド北東部のファーン諸島において、水中で泳ぐ野生のハイイロアザラシのオスが前ビレで拍手し、銃声のような「パン」という音を鳴らす様子を動画で初めてとらえた。この音は0.1秒足らずと短く、10キロヘルツ(kHz)を超える高周波であった。

バーヴィル博士は「ハイイロアザラシの拍手は非常に音が大きく、最初は信じられなかった」とし、「どのようにして空気のない水中で拍手し、あれほど大きな音を鳴らしているのだろうか」と驚きを示している。この動画を含めた一連の研究成果は、2020年1月31日に学術雑誌「マリン・マンマル・サイエンス」で公開されている。

アザラシが拍手すること自体はけして珍しいものではなく、動物園や水族館で飼育されているアザラシも拍手する。しかし、動物園や水族館のアザラシは人間によって調教されたものであるに対して、この動画がとらえた野生のハイイロアザラシは、自然と拍手をしている。

file-20200120.jpg

Ben Burville/Illustrations: David Hocking

大きな鋭い音で他のアザラシにシグナルを送っている

研究論文の共同著者である豪モナシュ大学のアリスター・エバンズ准教授によると、ハイイロアザラシのほかにも、体や尾で水をはじいて衝撃音を鳴らすことのできる海洋哺乳類が存在するという。

ハイイロアザラシは水中で拍手し、周囲の雑音をかき消すほどの高周波で大きな鋭い音によって、他のアザラシにシグナルを送っている。

その目的について、研究論文の筆頭著者であるデイビッド・ホッキング博士は「ライバルのオスを追い払ったり、目当てのメスにアピールするためだろう」と考察。ゴリラが胸を叩いて自らの強さを誇示したり、メスに求愛する「ドラミング」と似たものだと考えられている。

水中での拍手を妨げると、繁殖を妨げるおそれも

ハイイロアザラシにとって、水中での拍手は重要な社会的行動のひとつとみられ、人間の騒音などによってこれを妨げることは、繁殖を妨げ、ひいてはこの種の生存をも妨げてしまうおそれがある。

ホッキング博士は、自ら寄稿したオンラインメディア「ザ・カンバセーション」の記事において、「私たちの周りにいる動物たちをよりよく理解することは、動物そのものはもとより、彼らの生活様式の保護にも役立つ」と説いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾外交部高官、イスラエルを最近訪問=関係筋

ワールド

韓国、投資促進へ銀行・商業規制の緩和計画

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ワールド

〔アングル〕長期金利2%接近、日銀は機動対応に距離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中