最新記事

麻薬

「沢尻エリカ報道」で見過ごされる薬物犯罪の最前線

2020年2月6日(木)18時00分
前川祐補(本誌記者)

世界ではテロ対策と同等の危機意識が持たれている薬物犯罪(フィリピンで摘発された薬物取引、16年) REUTERS/Romeo Ranoco

<手軽なSNSを通じて一般人が薬物に汚染されていく実態に警鐘を鳴らす元麻薬取締官に、本当に知るべき麻薬事情と日本での大麻解禁の是非を聞く>

女優の沢尻エリカが、合成麻薬を所持した罪で東京地裁から懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を言い渡された――。薬物犯罪に関するニュースが毎年のように日本社会を騒がせているが、耳目を集めるのは沢尻のような芸能人や著名人による犯罪と、それに伴う賠償問題の報道が多い。そうした「芸能ネタ」が世間を騒がせる一方で、世界の薬物事情や日本に迫る脅威の実態は見過ごされがちだ。

実際、日本を巨大マーケットとして標的にする外国の犯罪組織の動きや、身近に迫るネット取引の脅威など、日本社会の足元には薬物汚染が急拡大している――。こう警鐘を鳴らすのは、麻薬取締官としての自身の体験を交えながら薬物犯罪とその捜査の実態を綴った『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)を上梓した瀬戸晴海氏。なぜ日本は狙われるのか、海外で広がる大麻解禁をどう考えるべきなのか、本誌・前川祐補が聞いた。

◇ ◇ ◇

――日本は今、「かつてない薬物汚染の激流に呑み込まれようとしている」と指摘している。世界がそれほど日本をターゲットにする理由は?

1つは末端密売価格が高額だからだ。例えば、覚醒剤は1グラムあたり約6~7万円で取引されているが、これは世界最高値の水準で、東南アジアの5~10倍にもなる。だから海外の犯罪組織は「日本は売れる市場」と捉えている。

――その日本市場をめぐり外国のマフィアが抗争を繰り広げている?

かつては薬物のマーケットをめぐり犯罪組織がしのぎを削り合っていたが、最近は結託するようになっている。これは(自動車や家電製品の製造の様に)薬物も1つの産業としてサプライチェーン化しているためだ。(製造、販売、おろしなどの役割が)どこがどうつながっているのか実態は分かってはいないが、アジアのハブは香港だ。例えば、メキシコのある薬物犯罪組織が一時期日本をターゲットにしていたことがあるが、その際、密輸入に香港人が絡んでいたことがあった。おそらく香港の組織が商社的な立場になって動いていたのではないかと疑われるが、推測の域を出ない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレなおリスク、金利据え置き望ましい=米アトラ

ビジネス

トヨタ、米に今後5年で最大100億ドル追加投資へ

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中