最新記事

麻薬

「沢尻エリカ報道」で見過ごされる薬物犯罪の最前線

2020年2月6日(木)18時00分
前川祐補(本誌記者)

matori.jpg

「ダークウェブは麻薬取締官を震撼させている」と語る元取締官の瀬戸春海氏 YUSUKE MAEKAWA NEWSWEEK JAPAN

――犯罪組織の尾尻は追えない?

入省して間もない頃、海外に行ってどのような犯罪組織がどのくらいあって、どこが大手なのかと現地の関係者に聞くと、ポカンとした顔をされたものだ。逆に、「どうして日本の犯罪組織は自ら看板を掲げたり、名刺を持ったりするのか」と問われた。それくらい、世界の犯罪組織は地下にもぐっており実態が分からない。組織の構成員を検挙しても、彼らも自身が組織のこと良く知らない。組織の人間が多国籍化していることや、移民が利用したりしているので複雑になっている。

――そうしたなかで犯罪の足跡をどう見つけている?

事件の発生が1つのきっかけになる。そこでの情報を世界の捜査機関が集まる会議に持ち寄り、分析を進めていく。例えば、「我が国ではアフリカ勢が活動していていた事件が起きた」「我が国でも類似の事件が」などと情報交換が進む。そうするとアフリカでの動きが浮かび上がる。そうなると各国の捜査機関同士が連携しようとなったりもする。犯罪組織は薬物だけを扱う組織もあれば、それ以外にも手を染めるなど手広くやっている組織もあるので、総合的に捉えないといけない。海外においては、薬物捜査はテロ対策と同じという危機意識がある。

――ネットにおける取引も活発化している。ダークウェブの脅威と共に実態を教えて欲しい。

犯罪組織を通さずとも1キロ、2キロの薬物なら個人が直接ネットで簡単に売買できてしまうのが実情だ。ダークウェブの実態はよく分かっていないが、麻薬取締官を震撼させているのは事実だ。大元だったシルクロードはつぶされたが、それでも次々と新手のサイトが出て来ている。

ただ、ネットの動きを監視していると、意外にもダークウェブでは(取引の)反応が遅いようだ。若者が少量の薬物を手に入れようとするのならば、ダークウェブでなくてもツイッターに多くの「広告」が出ている。ここから入ってきた顧客に対して、密売人はツイッターから「消えるSNS」のアプリに誘導し、口座を作らせる。そうなるとサーバーに情報が残らなくなるため捜査は難航する。

だが、どれだけ取引自体がダークウェブ化しても、ブツは誰かが作り、誰かが送り、誰から受け取り誰かが使うので、どこかに人の気配が必ず出てくる。だから水際や受け取りの場面などで顔を出すところで待ち構える。ネット犯罪は、こうした五感を使った従来の捜査と、ネット捜査の両方が求められるため、手間が倍以上かかる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中