最新記事

インタビュー

香港デモ支持で干された俳優アンソニー・ウォンが『淪落の人』に思うこと

2020年2月4日(火)18時00分
大橋 希(本誌記者)

14年の民主化活動「雨傘運動」への支持を表明したことで仕事を干されたウォン カメラマン:Tetsuya Yamakawa/ヘアメイク:Hisae Kinoshita(Rouxda')

<女性監督の長編デビュー作にノーギャラで出演したアンソニー・ウォンに話を聞いた>

事故で半身不随となった中年男性と、彼の世話をすることになった出稼ぎのフィリピン人家政婦の交流を描く『淪落(りんらく)の人』が日本公開中だ。

派手さはないが、じんわりと心にしみる本作は、女性監督オリヴァー・チャンの長編デビュー作。男性主人公リョン・チョンウィンを演じるのは『インファナル・アフェア』などで知られる俳優アンソニー・ウォンだ。香港を代表するスターの1人であるウォンだが、14年に香港で起きた民主化要求運動「雨傘革命」への支持を表明したことで仕事を干された状態が続き、チョンウィンの「人生のどん底」という思いが分かるという。

作品への思いや役作り、香港の未来について話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――これまで『インファナル・アフェア』『イップマン 最終章』など、アクションやノワール作品に多く出演してきた。今までのイメージと違う役柄を演じたことで、何か得たものはあるか?

もちろんあるが、多いわけでもない。役者とは、与えられた役に自分の中の何かを投じて演技をするんです。自分にはいろんな色があり、その色を使って絵を描いている。組み合わせによって、まったく違う絵を描くことができる。

あるときは「この黄色はなかなかよかったね」と思い、「じゃあ、次はどうやったら違う黄色を出すことができるか」と考える。そういうことの繰り返し。今回の役も異なる色を組み合わせているに過ぎない。そういう意味では、得るものはそれほど多くはなかった。

――本作はオリヴァー・チャン監督にとって初の長編で、しかもあなたは当初、彼女のことを知らなかったとか。何が出演の決め手になったのか?

いくつか理由があるが、監督に初めて会ったとき、とても誠意のある人だという第一印象を受けたこと。つまり嘘をつくような人間ではないと分かった。そのときに監督が物語についていろいろと語ってくれたが、相当時間をかけて考えて、作った物語なんじゃないかな、と感じられた。

もう1つ重要だったのは、フィリピン人の女優が主役をはるということ。これまでの香港映画にはなかったことだが、彼女たちの活躍する場がもっとあっていいと、僕はずっと前から思っていた。この点もすごくよかった。

――不安はあまりなかった?

あることはあったが......実は脚本には、2人のベッドシーンがあったんです。でも、この映画の展開で、2人にラブシーンがあるのはおかしいと私は思った。正直、ラブシーンは好きじゃない。いわゆる本物ではない、まねのような形で演じるのが嫌で。やるなら本当にやりたい。

――では監督にアドバイスして、脚本を変えてもらった?

実は、撮影もしたんです。でも、おそらく監督も編集の段階でここはカットするだろう、と思っていた。この映画が描いているのはある種のロマン。だから現実的なそういう関係ではないんだ、と。

撮影は場面ごとにするが、われわれ役者は脚本を読んでいるので、この場面と後の場面の芝居がつながらなくてはならないとか、そういうことを考えながら演じている。でもあのときは、このラブシーンはカットされるだろうと感じていたから、後ろの場面とあまりつながらないようにわざと演じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日鉄のUSスチール買収、法に基づいて手続き進められ

ワールド

再送-中国とインドネシア、地域の平和と安定維持望む

ワールド

インドネシア、大規模噴火で多数の住民避難 空港閉鎖

ビジネス

豪企業の破産申請急増、今年度は11年ぶり高水準へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中