最新記事

インタビュー

香港デモ支持で干された俳優アンソニー・ウォンが『淪落の人』に思うこと

2020年2月4日(火)18時00分
大橋 希(本誌記者)

movie200204-main.jpg

事故で半身不随になった中年男性の主人公は、フィリピン人家政婦と心を通わせる NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

――ノーギャラで出演したというのは本当なのか。

本当です。この映画は低予算で、政府の助成金を受けて作られている。私の求めるギャラが多過ぎると払ってもらえない。かといって、少なければ正直、僕も嫌だった。それならいっそのこと、ノーギャラの方がいいんじゃないかと思った。

プロデューサーが最終的に、興行成績が良かったら、少し分け前に少しあずかれるように提案してくれた。僕は正直、見る人はそんなに多くないかもしれない、1週間も上映できたらいいだろうと思っていた。ところが結構、評判はよかったんです。今もまだ配給が続いていて、公開からほぼ1年たったが、まだ分け前はもらっていない。

――監督とは役作りについていろいろ話をした?

話すときと、話さないときがあった。例えば監督は、僕の手の動きについてものすごくこだわって、「こういう風にやって」と指示をくれた。なぜかというと、監督が脚本を書く前のリサーチで接していた身体障害者の方たちの手の動かし方がそうだったから、と。

僕は、全員が同じ動かし方とは限らないし、手は萎縮していないから普通に動かせる、わざわざ不自由な動きをやるのも変だなと思っていた。だから一時期は、手の動きについて監督と相当議論した。でも最終的には監督の指示に従って、演じた。

――あなた自身も撮影前に、体の動きを研究したりした?

研究する必要はなかった。良く知っていたので。というのは、自分の母親が10年間車椅子生活で、僕はずっと世話をしていた。座った母親が手をどういう風に動かしているのかも、ずっと見ていた。介護するときに車椅子から降ろしてベッドにどう寝かせるかというのも、全部経験済みなんです。

――「人生のどん底にある人は、その先の人生にどう向き合えばいいのか」という言葉が作品の資料にある。こういうことを考えたことはある?

しょっちゅう。今もどん底ですよ。中国大陸では、僕が出演した作品はすべて上映・公開禁止になっている。そういう意味では、もうリタイアの状態なんです。この映画はひょっとしたら、僕の最後の作品になるかもしれない。

――14年に雨傘革命への支持を表明したことが理由で、中国市場から締め出されたことですね。『淪落の人』でいくつか受賞もしており、これが復活のきっかけになったりは......。

しないと思う。賞を取ったからといって、彼らがやろうとしていることとは無関係なので。

――それでも、昨年秋から始まった反政府デモについても、支持するコメントを出している。

神様以外は誰も未来のことを知ることはできないし、今の運動が失敗したり、消えてしまうこともあり得る。でもそれでもいいと思っている。それでも人間としての尊厳、ディグニティーというものはやはり守らなくてはならない。

もう1つは、日本でいう「カクゴ(覚悟)」。現実は決して明るくないし、残酷な現実も目の当たりにしている。覚悟はしっかり持っていたほうがいいと思う。香港の未来は、香港人の手にゆだねられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反発、日銀イベント控えハト派期待が

ワールド

木原官房長官、撤回指示など明言せず 官邸幹部の「核

ワールド

NZ企業信頼感、12月は30年ぶり高水準 見通し指

ワールド

TikTok米事業、売却契約を締結 投資家主導の企
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中