最新記事

人種差別

新型コロナウイルスで「反中感情」世界に広がる 入店拒否やネット誹謗も

2020年1月31日(金)10時49分

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大とともに、世界中に反中国感情が広がりつつある。写真は30日、北京の駅を利用する市民ら(2020年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大とともに、世界中に反中国感情が広がりつつある。中国人観光客が入店を断られるケースや、ネット上で変わった動物の肉を食べる習慣をあざける投稿なども見られる。

これまでに中国から十数カ国に感染が拡大しているが、その多くは中国との関係が微妙になっている東南アジア諸国だ。これらの国では、中国による巨額のインフラ投資や南シナ海の領有権を巡る問題などで、同国に対する懸念が生じていた。

カナダのトロントでは、中国系カナダ人への差別をやめるよう当局が警告せざるを得なくなった。欧州でも中国系市民が街頭で偏見にさらされたり、新聞が敵意ある見出しを掲載するなどの事態が起きた。

シンガポール経営大学で人類学を教えるCharlotte Setijadi氏は「東洋通を気取る人によるさまざまな思い込みと、政治不信、医学的な不安がかなり強力な(反中感情を生む)組み合わせになっている」と指摘する。

中国当局が新型コロナウイルスは武漢市の野生動物を違法に取引する市場から感染したと発表したことから、ソーシャルメディアでは、こうした動物の肉を美味として求めたり、漢方薬の原材料として珍重したりする中国の風習が嘲笑されている。

中国人が最も観光で訪れるタイではツイッターで、あるユーザーが「コウモリを食べるのはやめろ」と書き込んだ。別のユーザーは、男性が生肉を食べている動画をアップして「中国人が新しい病気をつくり出しても驚かない」とつぶやいた。

ベトナムのダナンでは「あなた方の国が病気を広めたので、われわれは中国からの客へのサービスを提供しない」と英語で張り紙したホテルまで出現し、その後当局から張り紙を撤去するよう命じられたと、ホテルの支配人がフェイスブックで明らかにした。

ベトナムは中国に支配された歴史がある上に、今も南シナ海で紛争を抱えており、特に中国との関係が緊迫している。

ただベトナムに限った話ではない。東南アジアの政府当局者や学者などを対象に実施した調査が今月公表され、実に全体の6割が、中国への不信感を示した。

多くの国では、武漢市のある湖北省からの旅行者にビザ発給を制限している。それでも飽き足らない韓国やマレーシアの一部の人々は、中国人の入国を全面的に禁止してほしいと当局に要請するネット署名運動に参加した。

フィリピン南部のサマール島は30日、中国だけでなく新型肺炎の感染者が出た全ての国からの観光客の訪問を禁じる異例の措置を打ち出した。

フランスのパリも中国人に人気の旅行先の一つで、中国人在住者も多い。同国では、アジア系の人々が公共交通機関内でのひどい扱いの実情を知ってもらおうと、ツイッターに「私はウイルスではありません」というハッシュタグで投稿を行っている。

フランス生まれの中国・カンボジア系で、クリエイティブ系の仕事をする41歳の女性は、パリの地下鉄で隣に座った男性が席を立ち、スカーフで口を覆ったのを見た時は「本当にショックだった。(不浄という)烙印を押されていると感じた」と打ち明けた。

[ジャカルタ/ハノイ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏との関係終わった、民主に献金なら「深刻な結

ワールド

アングル:スペインで「ゴーストタウン」が再生、都市

ビジネス

アングル:韓国コスメ、トランプ関税の壁越え米で実店

ワールド

イラン、米の入国禁止令を非難 「底深い敵意示してい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっしり...「これ何?」と写真投稿、正体が判明
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中