最新記事

北朝鮮

「イラン司令官殺害、衝撃だ」北朝鮮国内で不安拡散......米メディア報道

2020年1月10日(金)16時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

新年に入って平壌市民の最大の関心事はイラン革命防衛隊司令官が米軍ドローンの攻撃で死亡した事件 KCNA-REUTERS

<平壌市民が今回の事件に騒然としているのは、言うまでもなく「次はわが国ではないか」と心配しているから>

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮の首都・平壌の市民たちは今、イラクで発生した米国によるイラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊・ソレイマニ司令官殺害の報に衝撃を受けているという。

平壌市の幹部消息筋はRFAに対し、「最近、平壌の住民は、外部からもたらされた衝撃的なニュースにざわめいている。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米国の無人攻撃機による空襲で標的殺害されたというニュースが住民の中で急速に広がっている」と語っている。

「次はわが国」

北朝鮮メディアが、海外のニュースを詳細に報じることはきわめて少ない。一般国民はインターネットにアクセスすることもできない。

それでも平壌は、外国公館や貿易機関が集中しているため、少ないながらもインターネットにアクセスできる人々がおり、出張で海外に行き来する幹部も多い。そのため、海外の重大ニュースはクチコミで市民の間に広がることも多く、「新年に入ってからの平壌市民の最大の関心事は、イラン革命防衛隊司令官が米国の無人機攻撃で死亡した事件」だとこの消息筋は強調している。

さらに、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は6日付で、ソレイマニ氏殺害に初めて言及した。発生から3日での報道は異例の早さにも思えるが、北朝鮮メディアはもともと、中東情勢については比較的詳細に報道する傾向が見られる。

北朝鮮はかつて、中東戦争に空軍を派遣してエジプトやシリアに加勢、イスラエル軍と戦った歴史がある上に、イランやシリアとは現在も友好関係にある。また、米国が中東で戦乱に巻き込まれれば、朝鮮半島への対応は「手薄」になるのが必至で、北朝鮮がその点を注視しているのは間違いない。

参考記事:第4次中東戦争が勃発、北朝鮮空軍とイスラエルF4戦闘機の死闘

もっとも労働新聞の記事は、この件を巡って中露の外相が4日に電話会談を行い、米国を非難したことを伝える間接的な報道で、自国の立場を反映した論評は避けている。同紙は8日付で続報を出したが、こちらも同様だ。イランとは友好国だが、金正恩党委員長とトランプ米大統領がともに親密な関係をアピールしてきた経緯もあり、事件に対する立場表明を避けたと見られる。

一方、平壌市民が今回の事件に騒然とするのは言うまでもなく、「次はわが国ではないか」と心配しているからだろう。

RFAは、ある平壌市民の次のような言葉を伝えている。

「イランはわか国より経済的にも軍事的にもより発展し、特にミサイルなどに対する防空システムも整備された国として知られているが、米国の無人機空襲に無防備にやられたという事実が衝撃をもって受け止められている」

ソレイマニ氏殺害の現場はイラクであり、その点でこのコメントには事実誤認が見られるが、自国の国防力に対するなかなかシビアな見方が出ていて興味深い。

参考記事:北朝鮮空軍「エジプト極秘派兵」はイスラエルに見破られていた

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ビジネス

テスラの中国製EV販売、11月は前年比9.9%増 

ワールド

イスラエル首相「シリアと合意可能」、緩衝地帯設置に

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中