最新記事

地球

南極で地球最深の地が発見される

2019年12月19日(木)15時45分
松岡由希子

南極氷床下の地形図を作成された...... NASA's Scientific Visualization Studio

<南極氷床下の地形図を作成し、東南極のデンマン氷河で地球最深の場所が発見された>

南極大陸の98%を占める南極氷床は、1400平方キロメートルにわたる地球最大の氷の塊だ。一見、平坦に見えるが、氷床下は起伏に富み、峡谷や尾根が潜んでいる。このほど、東南極のデンマン氷河で地球最深(液体状の水に覆われていない陸地の中で)の場所が発見された。

レーダー深測線、衛星画像、地震探査などのデータを用いて作製

米カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のマシュー・モーライガン准教授を中心とする研究チームは、南極の地形を表わした高精度な地形図「ベッドマシン」を作製。2019年12月12日、一連の研究成果を学術雑誌「ネイチャージオサイエンス」で発表するとともに、この地形図データをアメリカ雪氷データセンター(NSIDC)の公式ウェブサイトで公開した。

南極の地形を表わした高精度な地形図「ベッドマシン」 ロングバージョンは次ページ


Bedmachine3-736x417.jpg氷をはがした南極の地形図


「ベッドマシン」は、19の研究機関が1967年から収集した約100万マイル(約160万キロ)におよぶレーダー深測線のデータのほか、衛星画像データ、地震探査データなどを用いて作製された。

レーダー深測に依拠した従来のマッピング手法では、航空機の翼に搭載されたレーダーシステムが上空から氷に向けて電波を発射し、その反射波によって氷の厚さを測定しているが、航空機は直線に飛行するため、測定範囲に制約があり、とりわけ速く流れる氷河には適していない。

一方、「ベッドマシン」は「化学反応の前後で物質の総質量は変化しない」という「質量保存の法則」に基づいてレーダー深測線の間にあるものを予測するとともに、衛星データから流氷の動きにまつわる詳細な情報を得ることで、氷床下にある隆起やくぼみなど、海底の地形をより精緻かつ高解像度でとらえられるのが利点だ。

南極氷床がすべて融解すると海面が約60メートル上昇する

「ベッドマシン」では、デンマン氷河に地球最深となる海抜マイナス3500メートルのトラフ(舟上海盆)があることが示された。これは、露出した土地で最低地とされる死海の海抜マイナス413メートルのおよそ8倍にあたる。また、南極横断山脈の周辺では尾根によって流氷を守られている一方、西南極のスウェイツ氷河やパインアイランド氷河は、急速な氷河融解のリスクが高まっていることもわかった。

海抜マイナス3500メートルのトラフがみつかったデンマン氷河


南極では、1992年から2017年までの25年間で約3兆トンの氷が融解したとみられ、氷河融解のスピードは高まっている。アメリカ雪氷データセンターでは、南極氷床がすべて融解した場合、海面が約60メートル上昇すると予測している。「ベッドマシン」は、海面上昇の予測精度を向上させるうえでも、大いに役立ちそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中