最新記事

犯罪

中国から郵送で密輸されるドラッグ、次の標的は日本だ

Narcos China Style

2019年12月18日(水)17時45分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

現時点でアジアの最大市場はタイだ。国連の調べでは、アジアで押収されるメタンフェタミンの半分以上はタイ国内で見つかっている。現時点で、日本の違法薬物市場はアメリカの足元にも及ばない。しかし戦後に米軍の備蓄品が民間に横流しされて以来、メタンフェタミンは日本社会の暗部に確実に根を下ろしている。

スウェーデン安全保障・開発政策研究所のバート・エドストロームが2015年に発表した論文「忘れられた成功物語――日本とメタンフェタミン問題」によれば、日本では過去に覚醒剤の大流行が3度起きている。

また関西医科大学の研究チームによる2017年の報告書「日本における薬物依存症の新タイプの増加危機」によれば、インターネット経由で匿名性の高い売買が可能になったことで、違法薬物の使用は増加傾向にあるという。今や日本と韓国は中国製メタンフェタミンの主要密輸先だと、国連も指摘している。

中国最強の麻薬密売組織とされる三哥(サンコー)は2018年、メタンフェタミンだけで80億ドルとも177億ドルともいわれる稼ぎを上げたとされる。「取り締まれるわけがない」と、ビジルは言う。「中国全土に40万もの製造元と販売元が存在するのに、当局の捜査員はわずか2000人だ」

取り締まるどころか、政府がフェンタニル製造を支援していると主張する関係者もいる。「中国国内でのフェンタニル製造については、完全に政府に責任がある」と断言するのは、かつてDEAの捜査官だったジェフリー・ヒギンズだ。

中国がアメリカの要請に応じると期待するのは愚かだと、彼は言う。「中国が薬物を問題視するのは乱用が自国の経済に打撃を与えるか、体制を揺るがしかねない場合のみ。今はそのどちらでもない」からだ。

ヒギンズによれば、違法薬物は中国政府にとってうまみがある。アメリカが摘発に力を入れれば、それだけアメリカ経済が疲弊する。一方で中国の麻薬産業は推定340億ドル規模の国際市場で「過半数のシェア」を維持している。「欧米諸国を助けるのは戦略的にばかげている......ドル箱の産業をつぶすわけがない」

この手の「中国政府黒幕説」は目新しいものではない。1971年段階でも、中国政府が麻薬の密輸に関与している疑いはあった。

「金持ち日本」が次の標的

しかし当時「国際麻薬統制のための大統領内閣委員会」に提出された資料を読めば、米政府は中国が麻薬の製造・密輸に関わっていることを示す明確な証拠をつかんでおらず、ベトナム戦争に従軍した米兵に中国がヘロインを供給したとする報告を陰謀説として切り捨てていたことが分かる。また世界に流通するヘロインの75%が中国政府の指揮下で製造されているとするイギリス政府の指摘も退けていた。

それでも今の中国政府は摘発に前向きのようだ。2018年12月、20カ国・地域(G20)首脳会議でドナルド・トランプ米大統領と習近平(シー・チンピン)国家主席が会談した数日後に発表された議会調査局の報告書によれば、中国はアメリカの要請に応え、フェンタニルなどを含む170種類の向精神薬に規制をかけ、フェンタニルの製造に使われる化学物質NPPとANPPも規制対象に加えたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中