最新記事

犯罪

中国から郵送で密輸されるドラッグ、次の標的は日本だ

Narcos China Style

2019年12月18日(水)17時45分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

magw191218_narcos2.jpg

シカゴ・オヘア国際空港で押収された違法薬物 JOSHUA LOTT-REUTERS

だが、ここへきて彼らは再浮上している。今年8月、米財務省の外国資産管理局(OFAC)と金融犯罪取り締まりネットワーク(FinCEN)は違法薬物密売絡みの犯罪組織の首謀者として、いくつかの中国企業と個人名を公表した。

その中に、2017年にミシシッピ州で起訴された顔暁兵(イェン・シアオピン、42)がいる。彼はメキシコ湾に面した同州ガルフポートに工場を所有し、フェンタニルをはじめとする違法薬物を製造していたとされる。そして少なくとも6年にわたって複数の偽名や会社名を用い、インターネットなどを通じてアメリカ国民に直接売りさばき、中国国内でも2つの違法な薬品工場を操業していたという。

それだけではない。彼は、米政府当局が合成オピオイドの密売人と認めた100人以上とつながっていた可能性がある。そのためノースダコタ州でも起訴され、オレゴンやフロリダ、オハイオ、ジョージアなど「あらゆる州」で犯罪行為に手を染めていた疑いがある。

だが、これで一件落着とはいかない。今の彼は中国にいて、中国側が彼を逮捕する気配はないからだ。ちなみにアメリカと中国は容疑者の身柄引渡協定を結んでいないが、もしもアメリカの法廷で有罪となれば最長20年の実刑、100万ドルの罰金を言い渡される可能性がある。

アメリカのDEAに相当する中国国家禁毒委員会の于海斌(ユイ・ハイピン)副主任は、「アメリカが中国人民を一方的に起訴したので、こちらの調査は難しくなった」と言う。顔の起訴後に、于は米メディアの取材に答えて「中国の法律に違反したことを示す決定的な証拠がない」と語っている。「アメリカ側も証拠を示していない。これでは(顔も、もう1人の首謀者とされる張建〔チアン・チエン〕も)起訴したり逮捕したりできない」

根強い中国政府「黒幕」説

それでも米司法省は、中国側も捜査に協力しているとの認識を示している。「向こうも頑張っている」と言うのは、過去に中国側と協力して捜査に当たった経験のある元DEA幹部のマイケル・ビジル。「ただし(違法薬物を)止めるだけの資金も人材もない。こっちも同じだがね」

ビジルは犯罪捜査への協力で上海市当局から表彰されており、自身も中国側の対応を高く評価している。しかしフェンタニル、そして覚醒剤の1つであるメタンフェタミン(どちらもアジア諸国に密輸されている)の製造を中国側が撲滅できるとは思っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中