最新記事

犯罪

中国から郵送で密輸されるドラッグ、次の標的は日本だ

Narcos China Style

2019年12月18日(水)17時45分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

今年1月には国営新華社通信が、「メタンフェタミンのゴッドファーザー」とも呼ばれる蔡東家(ツァイ・トンチア)の死刑が執行されたことを報じている。蔡は広東省陸豊市博社村の共産党支部書記だったが、その村では中国国内で製造されるメタンフェタミンの実に3分の1が造られていたという。

2016年7月に発表された米中経済・安保検討委員会の報告書によれば、アメリカで消費されるメタンフェタミンのうち90%は、今もメキシコの麻薬カルテルが製造している。しかし、原料となる化学物質の80%は中国製だ。

今年11月7日には、河北省でフェンタニルを製造、密輸した罪で9人が有罪判決を受け、そのうち1人は死刑を宣告された。この摘発は米中当局の共同捜査の成果だった。

捜査の糸口となったのは、米移民関税執行局(ICE)広州支部が入手した電話番号だ。国家禁毒委員会の于によれば最終的に20人以上が事情を聴取され、製造工場1つと販売ルート2つが摘発された。押収されたフェンタニルは11.9キログラム、その他の違法薬物も19.1キログラムあった。

DEAは今年、北京と上海に加えて広州にも支部を設置した。しかし、フェンタニルとの戦いの最前線はあくまで米中双方の郵便サービスだ。

国営中国郵政は協定により、アメリカ宛ての荷物に関する電子データを全て米郵政公社に開示することになっている。米郵政公社の捜査官はハーグの欧州警察機関(ユーロポール)とも連携している。

事前警告付きで中国から発送される荷物は2017年10月の32%から、2019年5月には85%まで増加した。ただし差出人の追跡は難しい。差出人の情報は故意に割愛されたり、あるいは不正確だったりするからだ。

ちなみに、前出の元DEA捜査官ヒギンスは中国側の対応を信用していない。中国の公式統計は信頼できないと指摘した上で、「中国が欧米のために一肌脱ぐと期待するのは見当違いだ」と一蹴する。「何年も前から、アメリカはオピオイドの蔓延に手を焼き、中国に協力を要請してきた。しかし中国政府には、初めから協力する気がないのだ」

いずれにせよ、中国当局が本気で製造工場の摘発に乗り出しても、それで密輸を根絶できるとは考え難い。フェンタニルにせよメタンフェタミンにせよ、賢明なる製造業者は違法薬物の前駆物質を第三国に送り出している証拠が見つかっている。

その「第三国」とは、今まではメキシコだったが、今後はアジア諸国に近いインドになる可能性が高いと、DEAのビジルは言う。そのアジア諸国の中には、もちろん日本も含まれる。

ビジルは言う。「フェンタニルはいずれ日本に上陸する。日本は経済大国で、日本人は金を持っている。中国人に限らず、密輸業者なら誰だって狙っているはずだ」

<本誌2019年12月24日号掲載>

【参考記事】中国組織が暗躍、麻薬密輸は瀬取り化 フィリピン「超法規的」取締を継続へ
【参考記事】タイは麻薬撲滅をあきらめて合法化を目指す?

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英右派「リフォームUK」、10年居住許可の販売提案

ワールド

イスラエル・イラン停戦発表を歓迎、実施強く訴える=

ワールド

トランプ氏、ネタニヤフ氏との会談で停戦仲介 高官ら

ビジネス

ECBの大規模国債買い入れ、例外ケースのみ導入すべ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中