パウダースノーの聖地として世界的な成功を収めた北海道・ニセコ。冬には爆発的なインバウンド需要が押し寄せ、国際色豊かな熱狂に包まれる。しかしその一方で、ニセコエリアは長年、「冬高夏低」という極端なシーズン性に悩まされてきた。冬のオーバーツーリズムに対し、グリーンシーズン(夏)の観光需要をいかに掘り起こし、年間を通じて安定した地域経済のエコシステムを確立するか。この地方創生の大きな問いに対し、主要インフラを担う東急不動産が明確な解を提示し始めている。

 「冬高夏低」の壁と、オフシーズン分散の可能性

ニセコの冬の成功は疑いようがないが、地域経営の視点から見ると特定の季節への一極集中は大きなリスクをはらむ。夏になるとインフラや商業施設の稼働率が落ちるため整備が進み切らず、需要が急激に高まる冬場には交通渋滞や住宅不足といった形でインフラのひっ迫が顕在化してしまうという歪な現象が起きていた。

「冬だけに依存してしまうと、閑散期に街の飲食店などの機能が維持されず、結果として夏場に住民や滞在者が過ごしにくくなるという課題がありました」と、地域開発を牽引する東急不動産の塚原真理氏は振り返る。

この季節性の偏りは、観光業の宿命である「季節雇用」の不安定さも生む。「半年稼いで半年休む」という構造では定住は望めず、地域の持続可能性が損なわれてしまう。この課題を逆手に取ったのが、今回のオールシーズン化戦略だ。

冬のオーバーツーリズムに対して、夏のグリーンシーズンは広大な大自然と世界水準のインフラをゆったりと享受できる「未開拓のブルーオーシャン」となる。観光需要をオフシーズンへ戦略的に振り分けることは、混雑の緩和だけでなく、ニセコという土地のポテンシャルを引き出すための必然的な選択だった。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
搭乗時の壮観さだけでなく、室内の静音性にもこだわったエースゴンドラ

東急不動産が取った戦略の核は、「スキー場の設備や立地を活かし、巨額のインフラ投資を通年活用する」ことだ。その象徴が、最新鋭の「エースゴンドラ」と、標高813メートルに位置する山頂エリアの刷新である。

この夏から本格稼働した最新のエースゴンドラは、高級ソファーのようなシートや無料Wi-Fi、全面ガラス張りの特別ゴンドラなど、移動そのものに楽しさを付加し、多様なニーズに応えている。ゴンドラが到着する山頂駅舎の2階には、絶景カフェレストラン「NEST813(ネスト ハチイチサン)」がオープン。ただ景色を眺めるだけの場所だった山頂を、「そこに滞在すること自体が贅沢な時間となる空間」へと再定義した。

「YOTEI SKY TERRACE」や「YOTEI SKY FIELD」からは、日本百名山の一つである羊蹄山の圧倒的な稜線を、居心地のいいソファーから眺めることができる。冬のスキーヤーを運ぶインフラが、夏にはプレミアムなリトリート空間へと見事に変貌を遂げている。

「動と静」のコンテンツ開発と、老舗「NAC」との相乗効果

夏のニセコが提供する価値は、洗練されたリラクゼーション(静)だけではない。広大なゲレンデの斜面と豊かな水資源をフルに活かした、アクティブな山遊び・川遊び(動)の選択肢も劇的に拡充されている。

山麓のスキーセンター「アルペンノード」は、この夏から全てのアクティビティの総合受付窓口を兼ね、観光客の利便性を飛躍的に高めた。その目の前の芝生広場には、世界中で大流行しているスポーツ「ピックルボール」の特設コートが誕生。ゲレンデの地形をそのまま活かしたマウンテンバイク(MTB)コースや、斜面を駆け下りる「マウンテンカート」も拡充され、電動アシスト付きMTBの導入により、誰でも無理なく本格的な山走りを体験できるよう配慮されている。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
ダイナミックに斜面を駆け下りる「マウンテンカート」

そして、このグリーンシーズンの魅力を決定づける大きな一手が、2025年12月に東急不動産グループへ参画したアウトドアの老舗「NAC(ニセコアドベンチャーセンター)」とのシナジーである。これによりグラン・ヒラフの窓口で山遊びと川遊びの受付が完全に一元化された。NACを代表する「ニセコラフティング」や、日本最大級の空中アスレチック「アドベンチャーパーク」は、大自然そのものを体験できるエンターテインメントとして、ファミリーや若年層の心を強く掴んでいる。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
難易度別に豊富なコースが用意されている空中アスレチック「アドベンチャーパーク」

夏のニセコの最大の競争力は、宿泊施設の圧倒的なコストパフォーマンスと長期滞在への適性だ。冬場は世界中の富裕層がラグジュアリーなコンドミニアムを埋め尽くし宿泊費が高騰するが、夏場はその高水準なクオリティはそのままに、時期や部屋によっては冬の「約2割」程度の極めてリーズナブルな価格で滞在できる。ニセコのコンドミニアムの多くは高機能なキッチンや洗濯乾燥機を備え、長期ステイでもストレスなくプライバシーを保てる設計だ。この贅沢なハードウェアを安価に利用できる夏のニセコは、都心の猛暑を避けたワーケーションや二拠点生活を求める層にとって、これ以上ない選択肢となる。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
清流・尻別川を下るラフティングは、夏のニセコの代名詞的アクティビティだ

さらに、塚原氏は「ニセコを起点とした広域観光のハブとしての価値」を強調する。「ニセコに拠点を置き、車で1時間〜1時間半ほどの小樽や余市・積丹の豊かな食や海の絶景へ日帰りでアクセスし、夜は静かなニセコに戻って地元の食材を楽しむ。そんな贅沢なライフスタイルが夏には可能です」。アクセス面も、夏休み期間には新千歳空港からの直行高速バスが運行されるほか、観光協会によるエリア内シャトルバスも稼働。マイカーを持たない旅行者でもシームレスに旅を楽しめる環境が整いつつある。

ビジネスと地域課題解決の両輪――自治体と挑む持続可能な地域経営

東急不動産が夏のニセコ開発に注力する姿勢の根底にあるのは、「民間事業としての収益性の確保」と「地域課題の解決」を高い次元で両立させる持続可能な地域経営の思想である。1985年から現地で事業を展開する同社は、2022年に倶知安町と「包括連携協定」を締結。2026年4月には後志(しりべし)総合振興局とも連携を強化し、広域エリアでの活性化を推進している。

自治体が強く感じていた「冬高夏低」によるインフラの形骸化や雇用の不安定さに対し、東急不動産は夏のリゾート価値を自ら高め、人を呼び込むことで応えている。夏に安定した観光流入が生まれれば年間を通じた雇用につながり、地域のスーパーやコンビニなどの生活インフラが冬でもひっ迫しない水準に強化される。それが結果としてリゾートスタッフや地域住民の「通年雇用」を可能にし、生活の安定をもたらす。生活インフラが整えば定住人口が増加し、町の税収増、そしてさらなる街づくりへと還元されていく。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
水面をすいすいと滑っていくスタンドアップパドルも楽しい

さらに、全国的なドライバー不足が深刻化する中、地域交通の再構築にも着手している。2026年8月8日からは、マクニカと協働してニセコエリア初となる自動運転EVバスの実証運行を開始する予定だ。ニセコひらふ地区で定時定路線の運行を行い、将来的には国内スノーリゾート地で初となる自動運転レベル4による通年運行を目指すという。

こうした環境に配慮した次世代モビリティの導入も、市街地とリゾートの互恵関係を築く重要なピースとなる。 「夏にしっかりとお客様に来ていただくことは、地域課題の解決であると同時に、当社にとっても事業の継続性を高めるために不可欠な要素です。まさに自治体や地域の皆さまと二人三脚、両輪で進めています」と塚原氏はその意義を語る。

東急不動産が手掛けるオールシーズン型自然リゾートのニセコ
東急不動産でニセコ事業を担当する塚原真理氏

東急不動産が投じた100億円の投資計画は、この2026年をもって一区切りを迎える。ハードウェアの整備が完了した今、ニセコは本当の意味での「オールシーズン型自然リゾート」としてのスタートラインに立っている。今後は、今年導入したピックルボールや毎週開催されるサマーマルシェ、ジャズフェスティバルといったイベントの運営をさらに洗練させ、顧客のフィードバックを得ながらソフトウェアの充実を図っていくという。

冬の圧倒的な国際色と熱狂を知る人ほど、夏のニセコが見せる豊かで静謐な、それでいてエネルギッシュな大自然の姿に驚かされるはずだ。日本の地方創生や観光業の未来を示すビジネスモデルとしても、そして私たちのライフスタイルを豊かにする新たなデスティネーションとしても、夏のニセコは今、最も注目すべき進化の真っ只中にある。

●問い合わせ先/東急不動産 ニセコのまちづくり
https://www.tokyu-land.co.jp/wellness/resort/niseko.html