最新記事

思想統制

中国で焚書令、文化大革命の再来か

Why is China Burning Books?

2019年12月12日(木)13時25分
ジェームズ・パーマー

宗教的な出版物、とりわけイスラム教関連の本が焼かれたとみられる(写真は山西省長治市の本屋) REUTERS

<甘粛省の公立図書館が投稿した焚書写真がネットで炎上。毛沢東との比較は処分されかねないので秦の始皇帝の「焚書抗儒(書を燃やし、儒者を生き埋めにする)」を引き合いに出して批判>

中国・甘粛省北西部の鎮原県にある公立図書館が政府に批判的な書物を燃やした「証拠写真」が出回り、知識人たちが激怒している。図書館が12月上旬、ウェブサイト上で「違法な本、宗教的な出版物、とりわけ偏見に満ちた本や記事」を処分したと報告した記事に添えられていた写真で、女性2人が書物を燃やしている様子が映っている。

甘粛省鎮原県の公立図書館で書物を焼く女性職員


この記事と写真がメッセージアプリ「微信(WeChat)」上で急速に広まり、地元当局への批判が殺到した(その後、これらのコメントの多くが検閲により削除された)。

中国教育部は10月、全国の学校の図書館に対して、共産党やその指導部を中傷していると思われる本や「社会の秩序」に悪影響を及ぼしている本を処分せよという通達を出しており、今回の「焚書(書物の焼却)」もその一環として行われたものだった。鎮原県は寧夏回族自治区に隣接しており、同自治区には国内の回族イスラム教徒の20%が暮らしている。今回の焚書で、イスラム教に関する書物が焼却された可能性は高い。

毛沢東や始皇帝を彷彿とさせる統制

今回の一件は中国の知識層にとって、毛沢東時代を彷彿とさせる出来事だった。文化大革命の初期にも、特に外国の書物の焼却処分が行われたからだ。だがネット上に投稿されたコメントは、この文化大革命を直接引き合いには出さず(検閲・削除の対象とされる例が増えているため)、秦の始皇帝が行った言論・思想統制「焚書抗儒(書を燃やし、儒者を生き埋めにする)」との類似点を指摘するものが多かった。

批判の声を受けて、図書館はウェブサイトから問題の投稿を削除。地元政府は、この一件の調査と関係者の処罰を約束した。だが彼らが問題視したのは、書物の焼却ではなく「それが公の場で行われたこと」だ。地元政府が発表した声明は、図書館の職員らが「規則に従って書物を処分せず、65冊の違法な書籍を図書館前の小さな広場で燃やした」ことを非難する内容だった。

<参考記事>香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪──国際問題化する中国の言論弾圧
<参考記事>白人夫婦の中華料理店、「クリーン」を売りにしたら中国人差別と非難されて閉店に

(翻訳:森美歩)

From Foreign Policy Magazine

20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NTT、発行済み株式の1.81%・2000億円を上

ビジネス

中国貿易統計、4月は輸出入ともに予想を大きく上回る

ワールド

米運輸長官、航空管制システム刷新へ支出要求方針 具

ビジネス

旭化成、今期1.5%の営業増益を予想 米関税影響「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中