最新記事

アメリカ経済

グローバル化の弊害を見落とし、トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔

Economists on the Run

2019年11月29日(金)19時15分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

magw191129_Economists2.jpg

中国の急速な台頭は米製造業にとって悪夢となった(深圳の家電工場) JASON LEE-REUTERS


経済学者たちは1960年代末から連邦政府の政策立案に大きな影響を与えるようになり、アメリカを間違った方向に導き、社会の分断を助長したと、ジャーナリストのビンヤミン・アッペルボームは指摘している。多くの経済学者が福祉を犠牲にし、効率性を最優先して「高賃金の雇用を切り捨て、低コストの技術産業に未来を託した」というのだ。

「修正を試みても手遅れだ」

マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者、デービッド・オートーは、中国の急成長がアメリカの労働市場に及ぼした影響をデータで示してきた。オートーによればより大きな問題は、多くの経済学者が自由貿易は善だと無条件で信じていたことだ。「貿易は万人にとって有益だと政策立案者に助言するのが自分たちの務めだと思い込んでいた」

ハーバード大学の経済学者、ダニ・ロドリックは1997年に『グローバル化は行き過ぎか』という著書を発表した。当時は異端と見なされたこの本を書いたのは「経済学者がグローバル化に全く危機感を持っていなかったから」だと、彼は言う。今ではロドリックの見方が主流になっている。

さしもの経済学者たちも、自分たちが引き起こした事態に対処すべく重い腰を上げ始めた。ロドリックも元IMFチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャールと共に格差をテーマにした会議を主宰したばかりだが、もう手遅れかもしれないと言う。トランプ政権下では、まともな議論すらできないからだ。

トランプは、アダム・スミスの時代の重商主義者もかくやの短絡的な保護主義を信奉している。貿易をゼロサムゲームと見なし、貿易黒字は利益で、貿易赤字は損失だと思い込んでいるようだ。経済学のイロハも知らない無知ぶりは「現代アメリカの大統領の中でも際立ってお粗末だ」と、アッペルボームは嘆く。

それでもトランプは、中国の台頭に対するアメリカ人の不安を背景に、史上最大の貿易戦争に打って出た。不安が広がったのは、経済学者の読み違いのせいでもある。中国の急成長でアメリカの製造業の雇用がこれほど迅速かつ大量に失われるとは、彼らは夢にも思っていなかった。

クルーグマンも指摘しているように、「2000年以降、製造業の雇用は恐ろしいほど急減」し、その急カーブはアメリカの貿易赤字、特に対中赤字拡大の急カーブと一致していた。こうしたデータが、ただのデタラメにすぎないトランプの主張に信憑性を与えたのだ。

貿易問題や所得格差、労働者のための適切な保護策に関する「まともな議論を完全に消し去ったことが、最も理不尽なトランプ効果の1つだ」と、ロドリックは言う。

クルーグマンに、彼自身も含めて経済学者がトランプ政権の誕生を助けたのではないか、と聞いてみた。「それについては、まだ議論している最中だ」と、彼は答えた。「これは私の考えだが、トランプの(保護主義的な)貿易政策はさほど支持されておらず、トランプ人気に貢献したとは思えない。その意味でトランプ現象を経済学者たちのせいにするのはいささか酷ではないか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イラン交渉団、和平目指し直接会談 パキスタン交

ワールド

米軍がホルムズ「掃海」とトランプ氏、イランTVなど

ワールド

バンス米副大統領、パキスタンのシャリフ首相と会談

ワールド

米が資産凍結解除に同意とイラン筋、米当局者は否定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 3
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 6
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 7
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中