最新記事

日本

社会資本の高齢化──「陰鬱な科学」が迫る苦渋の決断

2019年11月22日(金)14時15分
櫨 浩一(ニッセイ基礎研究所)

陰鬱な科学

社会資本を作れば子供や孫の世代も利用できるので資産になるが、一方でそれを維持・更新する費用が将来の世代の負担として生じることになる。社会資本を後世代にできるだけ多く残せば、それだけ将来世代が助かるというわけではない。人口減少が予想されている我が国では、利用者が大きく減少する施設の発生が予想される上、社会資本整備に割ける費用も大きく伸ばすことは難しくなるので、現在保有している社会資本を全て維持した上で、さらに新しい社会資本の整備を行うことは無理だ。新規に整備が必要なものが出てくれば、更新費用が捻出できない施設が生じ、維持すべきもの、維持を断念するものに区別することが必要になる。

維持・更新に十分な資金を割り当てずに、漫然と老朽化した設備を使い続けると、大きな事故に繋がったり、自然災害が発生した時に弱点となって被害を拡大させてしまったりして、多くの人命を危険にさらすことになる恐れも大きい。社会インフラの維持が困難となって、住み慣れた土地を離れることをお願いしなくてはならない人達が生まれてしまうのは申し訳ないことではあるが、その資金があれば多くの人が災害や事故から救われることに理解をお願いするしかない。

英国の思想家トーマス・カーライルは経済学を陰鬱な科学(dismal science)と呼んだ。経済学が我々に苦渋の決断を迫ることが多くて不愉快なものであるのは確かだが、眼を背けても我々は真実から逃れることはできない。

9月の台風15号では、千葉県内で大規模な停電が起こり、概ね解消するまでには長期間を要した。気候変動の影響もあって想定以上の強い風が吹いたことも大きな原因で、送電線の鉄塔や電柱の復旧工事では、単純に前と同じものを作るだけでは不十分と考えられる。社会インフラ全体をもっと災害に強いものにする必要があり、そのために単なる再建よりも費用は高いものになるだろう。

人口減少下での社会資本のあり方について、もっと議論が必要である。

42_ext_01_0.jpg[執筆者]
櫨 浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所
専務理事 エグゼクティブ・フェロー

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は5日ぶり反発、調整の一巡 政策期待も

ワールド

アブダビ投資会議出席者の身分証明書、700件超流出

ワールド

衆参本会議、高市氏を首相に選出 第2次内閣発足へ

ワールド

アングル:SNS規制に動く欧州諸国、ビッグテック擁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    極超音速ミサイルが通常戦力化する世界では、グリー…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中