最新記事

日本

社会資本の高齢化──「陰鬱な科学」が迫る苦渋の決断

2019年11月22日(金)14時15分
櫨 浩一(ニッセイ基礎研究所)

急速なインフラ整備のツケで、今や社会資本向け投資の9割が更新費用に充てられている ngkaki-iStock.

<インフラも時が経てば将来世代の負担になる。すべてを維持・更新することが無理だとすれば取捨選択を迫られ、住み慣れた土地から移住しなければならない人も出てくる>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2019年11月8日付)からの転載です。

老朽化する日本の社会資本

東京の首都高速道路は、1962年に京橋と芝浦の間の4.5kmが開通し、1964年の前回の東京オリンピックに向けて突貫工事で整備が進められた。初期に作られた部分は既に半世紀以上が経過し、首都高速道路株式会社は、「進行する構造物の高齢化や過酷な使用等により、重大な損傷も発見されている状況」にあるとして、大規模な更新・修繕事業を進めている。2012年には中央高速道路の笹子トンネルで天井が崩落して9名の方が亡くなられるという事故が起こったことに見られるように、首都高速道路に限らず長年整備が進められた日本の社会資本は老朽化が進み、更新や大規模な改修工事が必要になっているものが少なくない。

膨張する維持・更新費用

社会資本を使用可能な状態に維持するには、毎年相応の維持コストがかかるだけでなく、何十年かに一度は大規模な改修工事を行う必要がある。GDP統計では、社会資本が時と共に老朽化したり陳腐化したりして価値が下がることを反映して、固定資本減耗という項目を立てている。企業であれば減価償却費に相当する部分で、毎年実際に支出が行われるわけではないが、資産価値を維持するために投資を行うとすれば必要となる費用が会計上の費用として計上されている。

毎年発生している政府の固定資本減耗は、政府の固定資産の約3%程度で、社会資本が増え続けていることを反映して緩やかだが増加傾向が続いている。財政が深刻な状況にあることもあって、毎年度の公共予算はかつてに比べて大きく減少していて、固定資本減耗と公的固定資本形成の差額は縮小し、近年は毎年の社会資本への投資額の約9割を更新に充てなければならない計算となっている。

毎年発生する固定資本減耗は帳簿上の数字であり、工事が行われて支出が発生しているわけではなく、資金が積み立てられているわけでもない。老朽化が進んで大規模改修が必要な時になって初めて過去の費用もまとめて工事費用として皆が認識するようになる。

毎年の経済の変動を見るのには固定資本減耗を控除する前のGDP(国内総生産)が使われ続けているという事情もあって、社会資本の潜在的な更新費用に対する社会の関心は薄い。

Nissei191119_2.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総合PMI、9月は61.9に低下 予想も下回

ビジネス

アングル:Z世代が変える高級ブランド市場、グッチな

ワールド

日米韓外相が会談、台湾・南シナ海情勢に懸念表明 北

ワールド

コペンハーゲンとオスロの空港が一時閉鎖、無人機目撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがたどり着ける「究極の筋トレ」とは?
  • 3
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    「より良い明日」の実現に向けて、スモークレスな世…
  • 8
    米専門職向け「H-1B」ビザ「手数料1500万円」の新大…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「コメの消費量」が多い国は…
  • 10
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中