最新記事

BOOKS

日本の格差社会が「お客様」をクレーマーにし、店員に罵声を浴びさせる

2019年11月15日(金)12時05分
印南敦史(作家、書評家)

背景その2:SNS

SNSなど情報ネットワークの発達も大きく関係している。ツイッターなどで簡単に情報交換ができる時代であるだけに、「あの店で○○を買ったらこんなことをしてもらえた」、あるいは逆に「してもらえなかった」というような情報が簡単に他者と共有できる。そのため、知らなくてもいい情報まで誰しもが知ってしまうことになる。

再び池内教授の言葉。


 今まで、一般消費者が自分の思いを簡単に吐露する場なんて無かったですよね。ところが、誰でも簡単に情報を発信することができるようになった。そうすると、多くの第三者が共感すれば、あっという間に炎上してしまう。(中略)一つ何かが起こると、その真偽を問う間もなく社会全体が便乗して、下手をすればブランド潰しや企業いじめみたいな状態になってしまう。恐ろしいですよね。一般大衆が大きなブランドを潰す、企業を潰すなんていう事態が起きかねない。(87〜88ページより)

また、情報化社会により世の中全体が疲れているために苦情が増えている、ということもあるのではないかと池内教授は分析している。

働き方改革が叫ばれながらも恩恵に預かれず、長時間労働で疲れて帰宅してもSNSでやりとりをしなければならない。そうなると気の休まる暇がなくなり、感情をコントロールする余裕が失われるということだ。

高齢者にも同じことが言える。すべての高齢者がそうではないにせよ、高齢化すると感情を抑制しづらくなるものだ。認知機能の低下、病気、退職、多くの喪失体験などが強い不安や孤独感、ストレスにつながり、感情のコントロールが奪われるのである。

そのため、「コーヒーがぬるい」というだけで店員にどなり立てたりするようになるわけだ。

若者も高齢者も、その背景には心の余裕をなかなか持てない「不寛容社会」の影響を受けているということである。

背景その3:格差社会

社会的な格差も、クレームと関係する大きな問題。そしてこのまま進んでいけば、従業員と消費者との間にさらなる格差意識が生まれかねないという。お金や地位のある人は何をしても許されるという感覚が芽生え、気に食わないことがあれば立場の弱い従業員を攻撃するということである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中