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ストレス耐性は就学前に決まる? 産業医が見た「ストレスに強い人」が共有する経験

2019年11月6日(水)16時10分
武神 健之(医師、医学博士、日本医師会認定産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事) ※東洋経済オンラインより転載

冒頭のように、もともと学生時代などは優秀だったのに、社会に出て苦戦する人がいますが、多くの方を面談してきて、それは「認知能力のために、非認知能力を犠牲にしてきた」ことも小さくないと考えています。

ある有名大卒の入社1年目男性社員のケースをご紹介します。彼は、仕事の飲み込みや分析力は新卒とは思えないほど優れていましたが、チームプレーが苦手で融通が利きません。部内で同僚と協調できず、次第に誰も彼に仕事を教えなくなり、孤立しました。産業医面談で精神面からくる体調不良を認めるものの、本人は最後まで上司が悪いという気持ちを変えることはできず、結局、退職していきました。

また、ほかの会社で入社3年目の女性社員のケース。彼女は博士号を持っているためか、周囲をやや小馬鹿にする傾向がありました。締め切り間近に起こったトラブルなどでも誰にも助けを求められず、大失敗してしまい、そこからうつによる休職となりました。

社会人で仕事をするうえで3つの必要なこと

いくら優秀でも社会では通用しないことは多々あります。それは、学校の授業では教えてくれない、社会人として仕事をするうえで必要な3つのことが欠けているからです。

まず、学生時代は、試験など自分のことを解決することが求められていましたが、社会人になると相手(お客様やチーム)の課題を解決することが求められます。他人のために何かをするには、相手の問題を察したり、聞き出す共感力やコミュニケーション力や利他性などが必要です。

2つ目は、協調性や忍耐力、回復力です。学生時代は仲のいい友達たちと過ごしていればよかったですが、社会人は上司やクライアントなど、苦手だったり気の合わない人たちとやっていかなければなりません。

3つ目は、行動力、やり抜く力、責任感です。学生時代は勉強で知識をつけて試験で点を取るという"机上"での作業で評価されましたが、社会人は、知識を活用して結果を出す"行動"が求められます。それには行動力、やり抜く力などが必要になるのです。

これらはいずれも、非認知能力といわれるものです。非認知能力の高い人は、自分の知らなかった新しい世界の人々と交わっても協調し、試行錯誤を繰り返し、転んでも立ち上がることができます。その姿勢こそが、ストレスに強いと言われるゆえんなのです。

もちろん、仕事へのミスマッチからくるストレス原因は、どちらの能力不足でも起こりえるもので、単にその仕事に対する十分な認知能力(基本的能力)が欠ける場合もあります。

ですので、私は、認知能力がいらないとは考えてはおりません。ただ、ストレスに強くなるためには、認知能力を上回る非認知能力が必要なのです。

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