最新記事

動物

森の人、また受難 インドネシアで銃弾24発受けたオランウータン見つかる

2019年11月29日(金)16時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

3月には74発被弾したオランウータンも

オランウータンはカリマンタン島(マレーシア名・ボルネオ島)とスマトラ島北部にだけ生息する絶滅危惧種で、アチェ州などではオランウータンの生息環境である熱帯雨林がヤシ油の農園開発を目的とした開墾や人為的な森林火災で消失していることなどからオランウータンが人里や農園に近づいてくるケースが増えている。

こうしたことから農園管理者や村落住民らがオランウータンを追い払ったり、「駆除」目的でエアガンやエアライフルで撃つ事態が起きているという。

銃器所持制限が厳しいインドネシアだが、空気銃であるエアガンやエアライフルの入手所持はそれほど難しくないとされ、特に山間部や熱帯雨林で生活、労働する人達は護身用に所持していることが多いといわれている。

3月10日に発見保護されたオランウータンの母子は、推定30歳の母親の体内から74発の銃弾が発見された。一緒に保護され、生後約1カ月の子供は保護直後に栄養失調と脱水症状で死亡した(「許せない! オランウータン母子襲われ子は栄養失調死、親は銃弾74発受け重傷」)。

この時保護されたメスのオランウータンはその後の治療で容体は安定し、リハビリテーションを受けるまでに回復しているというニュースが最近インドネシアで伝えられた。

オランウータンの母子は付近の農園に侵入してエサを探していたところを発見され、母親が農園労働者からエアガンで撃たれ、被弾しながら子を連れて逃げ回った末に倒れているところを村人が発見し、自然保護局係官が保護したのだった。

2018年1月には中カリマンタン州バリト県で民家の敷地内に侵入したオランウータンを住民が射殺した事件や同年2月には東カリマタン州東クタイ県で農園を荒らしたとして農民が空気銃約130発をオランウータンに撃ちこんで殺害した例も報告されている。この時は殺害に関与した農民4人が自然保護法違反で逮捕された。

発見したら攻撃せず報告、連絡を

自然保護団体などによると、オランウータンには「スマトラ・オランウータン」と「ボルネオ・オランウータン」さらに最近北スマトラ州タパヌリ地方で発見・確認された「タパヌリ・オランウータン」の3種が確認されている。

今回24発の銃弾が確認された「スマトラ・オランウータン」である「パグ―」がどういう状況でいつ誰に銃撃を撃たれたのかなどは今のところはっきりとしていないというが、地元警察では自然保護法違反容疑で捜査を開始している。

発見されたのが村の近くであることからこれまでの多くの例のように生息環境の変化によりエサなどを求めて人が住む村に近づいた結果として撃たれた可能性も指摘されている。

いずれにしろ自然保護団体やオランウータン保護組織などでは「もしオランウータンを発見した場合はその場で発砲や攻撃して追い払うのではなく警察や自然保護局などにまず通報や連絡をするようにしてほしい」と呼びかけている。

マレー語で「森の人」という意味のオランウータンは、インドネシアの環境問題を考えるとき、ある種象徴的な存在と言える。その意味でも彼らの受難は断ち切らなければならない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ自動車対米輸出、4・5両月とも減少 トランプ

ワールド

米農場の移民労働者、トランプ氏が滞在容認 雇用主が

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中