最新記事

領有権争い

「中国版南シナ海」が描かれた米中合作アニメ、ベトナム、フィリピンに続きマレーシアも上映禁止に

Malaysia Calls For Cuts to Children's Movie 'Abominable' Over Map

2019年10月21日(月)15時30分
ジェニーン・マリー・ルソー

ベトナムでは『エベレスト』のタイトルで公開中だった『アボミナブル』の看板を下ろす(10月14日、ハノイ) Thinh Nguyen- REUTERS

<米中合作アニメ映画に中国の領有権主張に基づいた南シナ海の地図が登場。ベトナム、フィリピンに続き、同海域で領有権を争うマレーシアでも作品の上映中止が決まった>

米中合作アニメ映画『アボミナブル』が東南アジアで物議を醸している。11月7日にこの作品の公開が予定されていたマレーシアでは、映画検閲当局がある場面の削除を求めた。

作品は、少女とヒマラヤの伝説の雪男「イエティ」との交流を描いた子供向けアニメだが、劇中に南シナ海に中国が主張する国境線を描き入れた地図が映る場面があり、国際的に問題になっている。


この海域については、マレーシア、中国に加えて、ベトナム、フィリピン、ブルネイが長年にわたって領有を主張している。

しかし、中国は1947年に自国の主権が及ぶ範囲として、南シナ海のほぼ全域をUの字を描くように囲む独自の国境線「九段線」を書き入れた地図を作った。領有権争いの当事国も国際社会も、この境界線を認めていない。

制作側は削除を拒否

「『アボミナブル』をマレーシアで上映する条件は、物議を醸す地図が登場する場面を削除することだった」と、マレーシア映画検閲委員会のモハマド・ザンベリー・アブドゥル・アジズ議長はロイターに語っている。

この作品を制作したドリームワークスは問題の場面を削除することを拒んだため、マレーシア当局は公開中止を決定した。

これは、10月13日に上映中止にしたベトナムに続く措置だ。

「この作品の上映許可を取り消す」と、ベトナムの文化・スポーツ・観光省のタ・クアン・ドン次官は地元誌に語った。

『アボミナブル』は、ドリームワークス・アニメーションと中国のパールスタジオ(旧社名オリエンタル・ドリームワークス)の共同制作によるもの。CNNが指摘するように、主にアジア系の俳優を声優に起用したこの作品は、上海に住む少女イーの物語。イーが眺める地図に、九段線が描かれている。

「私たちは特定の文化を描きつつ、地球全体に関わる物語を語ることができるはずだと考えている」と、パールスタジオの製作者ペイリン・チョウは、9月にロサンゼルス・タイムズに語った。「『アボミナブル』はその完璧な例だ」

<参考記事>戦前日本の検閲から続く「のり弁」文書の歴史
<参考記事>監視国家ベトナム、ネット検閲5倍へ 環境問題の活動家まで実刑

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中