最新記事

疑惑

中国資本のダム建設に反対した環境活動家の死に疑惑 インドネシア、真相を葬るため警察も関与?

2019年10月18日(金)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアのメディアも環境活動家の死に疑問を投げかける 写真は現地メディアKORAN TEMPO10月10日号表紙より

<オランウータンなどの希少動物が暮らすジャングルを切り開きダムを建設するという国際プロジェクト。反対していた環境活動家の死は単なる事故だったのか──>

インドネシアを代表する環境問題団体「ワルヒ・Walhi(インドネシア環境フォーラム)」の活動家の死を巡り、単なる交通事故として処理しようとする警察に対し、団体関係者が「事件としての捜査」を求める事態が起きている。この活動家は地方政府などが関連したダム開発事業に関係して深刻な環境破壊や生態系への影響問題を追及していたことから、「単なる事故死ではない可能性」も否定できないとしているのだ。

10月3日、スマトラ島北スマトラ州の都メダン市内の路上でゴルフリッド・シレガル氏(34)が倒れているところを自転車タクシーの運転手らが発見し、病院に緊急搬送されたが、3日後に死亡した。

死因は頭部にあった鈍器によるとみられる外傷で、地元警察は事件性のない単独のバイクによる交通事故として処理しようとしていた。それも飲酒による酒酔い運転の可能性まで指摘していた。

ところがシレガル氏が所属するワルヒのメダン支部やワルヒ主任弁護士などは「交通事故と断定するのは拙速で、より詳細な捜査が必要だ」と再捜査を求める事態となっている。

目撃者などの証言として主要メディア「テンポ」や「アンタラ通信」などが伝えたところによると、シレガル氏は鈍器によるとみられる頭部外傷以外の傷はなく、倒れていた現場から所持品のバッグ、ラップトップのパソコン、財布、携帯電話などがなくなっていた。

所持品は自転車タクシーの運転手ら3人の男性が現場から持ち去ったとみられているが、弁護士などは「シレガル氏所有のバイクが盗まれずに残されていた」ことを指摘して「交通事故と物取りの犯行」との見方に疑問を投げかけている。

一方で警察はシレガル氏の遺体からアルコールが検出されたとして「酒酔い単独事故」の可能性まで指摘した。しかし、事故から3日後に死亡したシレガル氏の遺体からアルコールが検出された司法解剖は、死後6日後に行われたというが、長時間もアルコールが体内に残されるケースが果たしてありうるのか、さらに肝心の遺体解剖結果が公表されていないことも死因の疑問をさらに大きくしている。

また、シレガル氏と最後に会ったという友人は「事故前にシレガル氏と一緒にいたが、彼はボトル入りの紅茶とコーヒーしか飲んでいない」としてアルコールを飲んだ形跡がないことを証言している。このことから警察の解剖所見に大きな疑問が投げかけられているのだ。


20191022issue_cover200.jpg ※10月22日号(10月16日発売)は、「AI vs. 癌」特集。ゲノム解析+人工知能が「人類の天敵」である癌を克服する日は近い。プレシジョン・メディシン(精密医療)の導入は今、どこまで進んでいるか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カンタス航空、コロナ禍中の解雇巡り罰金 豪労働訴訟

ビジネス

焦点:ジャクソンホールに臨むパウエル議長、インフレ

ワールド

台湾は内政問題、中国がトランプ氏の発言に反論

ワールド

香港民主活動家、豪政府の亡命承認を人権侵害認定と評
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中