最新記事

嫌韓の心理学

保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)

THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES

2019年10月11日(金)18時10分
古谷経衡(文筆家)

保守の論客として活動してきた古谷は、「内側から」自称保守やネット右翼の差別発言を臆せず批判してきた(10月1日、古谷の自宅にて撮影) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<当初ネット右翼とは分離していた旧来の保守が、いかにして「嫌韓」に堕していったかを全て記す。本誌「嫌韓の心理学」特集より>

今では信じられないことだが、冷戦時代の日本の保守は韓国に対して極めて好意的であった。朝鮮半島は38度線で南北に分断され(むろん、これは現在でも変わらない)、共産主義の脅威がソウルからわずか数十キロ地点まで押し寄せていた時代、保守は「反共」というただ一点のみにおいて韓国を同志として見なした。
20191015issue_cover200.jpg
この時期に大手を振っていたのが「釜山赤旗論」。韓国南端の釜山市が共産主義者の手に落ちると日本本土もいよいよ危ないという認識のことで、韓国はそれを防ぐ「反共の同志」として認識されていた。

いわゆる70年安保華やかなりし頃、「反・反安保運動」に傾倒した者、つまり保守系の学生らは韓国の同世代とさまざまな国際交流を行っている。現在、自称保守系論壇誌で「韓国人は嘘つき」だの、「韓国人は恩を忘れている」だのと口をヘイトの形にして叫んでいる自称保守系言論人の古老は、その昔この系統に属していた。

韓国人と酒を酌み交わし、歌い、時には恋仲になった。このような反共時代の韓国人との交流を、彼らは口が裂けても口外しない。もはやネット右翼と一体となった自称保守のより若い世代から「裏切り者」の烙印を押されるのが怖いからである。

かつて韓国人と大いに交歓した日本の保守系学生らが、現在、少なくない数でヘイトの前衛に立っていることを私は知っているし、その人間を名指しすることもできる。しかし冷戦時代の記憶や知識などみじんもない現在の自称保守やネット右翼には、韓国人が反共の同志だった事実をいくら指摘したところで通用しないから、古老らは沈黙を貫いている。まるでかつての韓国人との交歓の事実を知られまいとして、やましさを隠そうとするようにわれ先にと「嫌韓」を叫んでいる。

動画が両者をブリッジした

「嫌韓はネット右翼の専売特許」とはよく言ったものだが、もはやこの定義は正しくないかもしれない。一部自称保守系雑誌や中小零細出版社の中に自閉していた嫌韓は、今や最大のマスメディア=地上波テレビの中で堂々と展開されているからだ。

しかし、これはテレビの中枢が韓国を憎んでいるからではなく、単に高齢化した視聴者に対し視聴率として訴求できると踏んでのことであって、地上波テレビが思想的に転換したからではない。地上波テレビにおける嫌韓は一過性のものであり、時期が来れば収束すると私はみる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円

ワールド

パレスチナ自治政府、ラファ検問所を運営する用意ある

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ハマス引き渡しの遺体、イスラエル軍が1体は人質でな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中