最新記事

監督インタビュー

アルモドバル70歳にして語り得た珠玉の物語

His Most Personal Movie

2019年10月26日(土)17時45分
ジューン・トーマス(スレート誌記者)

今年3月の新作上映イベントにアルモドバル(写真左端)はメインキャストのクルス(左から2人目)、バンデラス(左から3人目)、エチュアンディア(右端)らと参加した Sergio Perez-REUTERS

<「私の人生に基づいた」半自伝的な新作『ペイン・アンド・グローリー』を、スペインの映画監督アルモドバル本人が語る>

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作『ペイン・アンド・グローリー』は極めて自伝的な作品だ。ただし物語がひどく込み入っているので、最初に大筋のプロットを紹介しておこう。

主人公は老境に入って何かと病を抱えている映画監督のサルバドール(アントニオ・バンデラス)。32年前に作った映画が再上映されることになり、それに出演していた俳優アルベルト(アシエル・エチェアンディア)と再会。彼に勧められてヘロインを体験する。

そしてサルバドールは、昔の恋愛体験に基づく自伝的な脚本をアルベルトが一人芝居にして演じることを許可する。すると、その脚本に登場している元恋人のフェデリコ(レオナルド・スバラーリャ)が偶然舞台を見に来て、サルバドールと再会を果たす。

作中のサルバドールは繰り返し、バレンシアで過ごした子供時代の記憶を呼び覚ます。彼が奨学金で宗教学校に通えるように奔走した献身的な母親(ペネロペ・クルス)のこと、読み書きを教えてあげた若き肉体労働者エドゥアルド(セサル・ビセンテ)の裸身を見て失神してしまったことなどだ。

独特な世界観で知られるアルモドバルが70歳の誕生日を迎えた9月24日、スレート誌のジューン・トーマスが彼を訪ね、本作でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得したバンデラスのことや、過去の作品との共通点について話を聞いた。

* * *


――この作品はあなた自身の物語なのか?

私に関わる部分がたくさんある。私自身に最も近い映画と言えるが、文字どおりの自伝ではない。全て身近で起きたことだが、全てが自分の体験ではない。ほとんどは私の人生、あるいはとても親しい誰かの人生に起きたことだ。ただし「私の人生」には私の家族や兄弟姉妹の記憶、私の聞いた話も含まれる。

――文字どおりの自伝でないのに自分の部屋の家具を撮影に使い、自分の服をサルバドールに着せたのはなぜ?

作品のテーマには関係ない。主人公の髪形や衣装、暮らす部屋の内装が違っていてもよかった。でもアントニオ(・バンデラス)には、あれがよく似合っていた。大事なのは、主人公がたくさんの絵に囲まれて、しかし1人で暮らしていること。その孤独さを出したかった。

私のアパートの物を使う必要もなかったが、実際的なメリットはあった。美術監督にとっては都合がよかった。撮影中に突然何かが足りないと気付いても、アシスタントを私の家に行かせれば間に合ったから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中