最新記事

中東

<サウジ>対イラン戦争は避けたいが、戦う用意はある

Saudi Arabia Says It’s Ready for War

2019年9月19日(木)16時20分
トム・オコナー

石油施設攻撃に使われたとされる武器の残骸を見せて、イラン関与の根拠を説明するサウジのアルマリキ報道官 Hamad I Mohammde-REUTERS

<サウジ当局が、石油施設攻撃にはイランの関与があったとする「証拠」を提示する一方、ホーシー派はさらなる攻撃を宣言>

サウジアラビア当局は9月14日に起きた同国の主要な石油施設に対する攻撃は、地域の最大のライバルであるイランの支援によるものだと断定し、紛争の可能性に備える一方、紛争回避の道を探ると発表した。

イエメンの反政府派武装組織ホーシー派と戦うサウジ主導の有志連合軍の報道官、トゥルキ・アルマリキ大佐は18日に記者会見を開き、東部アブカイクとクライスの2カ所の石油施設の攻撃に使用されたと見られる武器をリストアップした。ドローン(無人機)18機、巡航ミサイル7基などで、ホーシー派は所有せず、「イラン政府とイラン革命防衛隊(IRGC)」が所有するものだという。


<参考記事>サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

アルマリキは「攻撃が北(イラン)から南(サウジ)に向かってなされた」証拠とされる画像などを提示、「高度な攻撃能力」だと指摘した。ホーシー派が犯行声明を出しているが、攻撃はイエメンから行われたものではなく、彼らは「IRGCの命令に従って」声明を出しただけだという。

「現在、発射地点の確認作業している。ドローンと巡航ミサイルを飛ばした者が誰であれ、わが国のインフラと民間人を攻撃した行為の責任を問われることになる。これは国営石油会社サウジアラムコやサウジアラビア王国ではなく国際社会に対する攻撃であり、世界経済とエネルギー産業の破壊を目指す意図的な企てだ」

発射地点をどう突き止めるのかと聞かれ、アルマリキは「部品の一部がここにある。イラン政府とIRGCは情報をもみ消そうとしているが、われわれは既にイラン関与の十分な情報を集めている」と述べた。ただ、イラン軍が攻撃を実行したと断定できるのかと、記者団がたたみかけると、明確な返答を避けた。

<参考記事>サウジ石油施設攻撃は「イラン南西部からドローンと巡航ミサイルで」

トランプは断定を避ける

ホーシー派の報道官も記者会見を開き、「抑止力均衡作戦第2弾」の一環として、ドローン攻撃を行なったと改めて強調した。アルマリキ同様、攻撃地点の衛星画像とされる画像を見せ、「米政府は作戦実行後に米軍の偵察機が撮った画像を加工して公表し、被害を軽度に見せようとした」と主張。サウジアラビアとアラブ首長国連邦を標的に引き続き攻撃を行うと警告した。

ホーシー派はサウジ主導の有志連合が支援するイエメンの暫定政権と2015年から交戦を続けているが、イランは一貫してホーシー派への支援を否定。イラン当局は首都テヘランのスイス大使館を通じて、18日に米政府に送った公式文書で、14日の攻撃への関与を改めて否定し、米軍が何らかの攻撃を行えば、わが国は即座に対応するが、その場合の標的は攻撃を実行した部隊だけにとどまらない、と警告した。

イラン政権に近いタスニム通信によると、イラン最高安全保障委員会のアリ・シャムハニ事務局長は18日、「緊張を緩和し、いかなる紛争も避け、対話を通じて地域の危機を解決することが、イランの戦略的政策である」と述べた上で、次のように警告を発した。「わが国またはわが国の利益を攻撃する意図や企てを十全に監視する体制が整っており、われわれは邪悪な行動を事前につぶし、全面的な対応をとることにより、最も激烈な形で攻撃者を驚かせるだろう」

ドナルド・トランプ米大統領は18日、「イランに対する制裁を大幅に強化するよう財務長官に指示した」とツイートした。前日には、攻撃の黒幕はイランの「ようだ」とも述べたが、14日の時点で即座にイランの仕業と決めつけたマイク・ポンペオ国務長官ほど強い断定は避けた形だ。

イランとサウジアラビアの緊張を一気に高めた今回の攻撃は、トランプ政権の「イラン封じ込め」が中東で影響力を増すなかで起きた。トランプは、イランと敵対するサウジアラビアとイスラエルの強力な盟友と見られていて、制裁緩和でイランが武装勢力への支援を拡大し、ミサイル開発を進めているとして、2015年に成立した核合意から離脱し、制裁措置を再発動した。米政府は、今も核合意を支持している中国、EU、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスとこの問題で対立している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中