最新記事

「死ぬ権利」合法化を──幇助自殺の英国人男性、最期のメッセージ

2019年9月11日(水)19時15分
松丸さとみ

幇助を受けて自らの命を断つ決意をしたリチャード・セリーさん 5 News-YouTube

スイスへ旅立ち人生に幕

不治の病を患う英国人男性が6日、死の幇助が違法となる英国から合法のスイスへと移動し、そこで65年の人生を終えた。スイスへ旅立つ直前、英国でも死の幇助を受けられるよう法を整備してほしいと、最期のビデオ・メッセージの中で訴えた。死を自分で選べるよう活動している英国の非営利団体ディグニティ・イン・ダイイングが男性のビデオ・メッセージを公開した。

この男性は、かつてスコットランドの中学校で校長を務めていたリチャード・セリーさんだ。2015年に運動ニューロン疾患(MND)の診断を受けた。筋肉の運動を司る神経系統が侵される病気の総称で、治療法は見つかっていない。セリーさんは診断を受けて以来、歩いたり、話したり、物を飲み込んだりするための力を失ったとビデオの中で話している。これまでポジティブに過ごそうとかなりの努力をしてきたが、これ以上苦しみたくないと考え、幇助を受けて自らの命を断つ決意をしたという。

テレグラフ紙によると「死の幇助」とは、「幇助自殺」と「安楽死」のどちらも含む。「幇助自殺」は他者の力を借りつつ自らが命を断つもので、「安楽死」は本人合意のもと医師が薬を投与するなどして他者が実行するものだ。現在、英国では幇助自殺も安楽死も禁止されている。

セリーさんが最期を迎えたのは、スイスのディグニタスという非営利団体だ。セリーさんによると、この施設に来たからといって誰もが死の幇助を受けられるわけではなく、不治の病であることを証明しなければならない。セリーさんはまた、ディグニタスの「診察」を受けるには1万ポンド(約132万円)かかると明かし、この金額が出せる自分は「運がいい」と話した。

スイスで死の幇助を受けるために、スコットランドの自宅で死ぬよりも早い段階でスイスに移動しなければならないことになるため、家族と一緒に過ごす時間が短くなってしまう、とセリーさんはビデオの中で話した。自分にとってはもう手遅れではあるが、同じように不治の病を抱えている人のためにも、スコットランドでの死の幇助を合法化してほしいとセリーさんは訴えた。セリーさんの妻のエレインさんは、今後も死の幇助合法化に向けて活動していく意向だ。

弱者を幇助自殺へ追いやる懸念

しかし合法化への道は簡単ではなさそうだ。苦痛緩和ケアを促進し、死の幇助に反対の活動を行う組織ケア・ノット・キリングのゴードン・マクドナルド氏は英国のニュース番組5ニュースとのインタビューで、死の幇助を認めてしまったら、障害を持った人など弱い人たちを死に追いやるプレッシャーになってしまう恐れがあるとの考えを示した。

5 News
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中