最新記事

歴史

戦後日本にCIAスパイを送り込んだ、日本人女性キヨ・ヤマダの数奇な運命

2019年9月28日(土)16時10分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

だが大学院卒業後は、米兵と結婚。アメリカやドイツなど各地を転々とする生活を続け、46歳まで専業主婦として軍人の夫を支えた。ただ彼女の気持ちの中で、キャリアを目指す思いは消えてはいなかった。そしてその年齢で、ふとしたきっかけからCIAに入局することになる。

CIAでは日本に送られる諜報員を養成する言語インストラクターとして働いた。その一方で、日米を頻繁に行き来しながら、工作活動やリクルート活動にも深く関与していた。

日本人であるキヨは、CIAで対日工作を行うことに、罪悪感はなかったのか。新著『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社刊)では、キヨのこんな心情を紹介した。

「キヨは晩年、アイルランド人のアンジェラに、過去のいろいろな話をした。アンジェラによれば、キヨはあるときこんなことを言ったという。『私がCIAに入ってよかったことは、やっとアメリカに受け入れられたと感じることができたことなの』」

戦後の日本を抜け出し、アメリカ暮らしとなった彼女が見つけた安息の地はそこにしかなかったのだろう。そしてCIA退官時にはメダルを得て表彰されるほどの実績を残している。彼女にとってCIAが唯一の輝ける場所だったのかもしれない。

表向きには消されてしまった彼女の人生には、戦後を駆け抜け、アメリカに居場所を見出し、諜報活動という裏社会に身を投じた日本人女性の物語があった。キャリアや結婚に思い悩みながら生き方を模索したキヨの葛藤は、女性がキャリアの様々な局面で障害に直面する今の時代にも通じるものがあるのではないだろうか。

【著者インタビュー】元CIA局員たちへの取材で炙り出された、日米の諜報活動の実態

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中