最新記事

歴史

戦後日本にCIAスパイを送り込んだ、日本人女性キヨ・ヤマダの数奇な運命

2019年9月28日(土)16時10分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

1956年頃のキヨ・ヤマダと夫のチャールズ・S・スティーブンソン(筆者提供)

<諜報活動という裏社会に身を投じて居場所を見出したキヨの葛藤は、現代女性にも通じるものがある>

筆者の知人が、アメリカ留学中だった10年ほど前に在米の日本人主婦らが集まった小さなホームパーティーに参加し、そこで「興味深い女性」の話を聞いたという。

その人物の名前は「キヨ・ヤマダ」。戦後間もなく渡米してアメリカ人と結婚した彼女は、その後に世界最強の諜報機関であるCIA(米中央情報局)に入局。スパイに日本語や日本文化を教えていたが、少し前に他界してワシントンのアーリントン国立墓地に眠っているらしい――そんな話だった。

kiyocoverobi01.jpg

この話を聞いた筆者は、キヨのことがずっと気になっていた。そしてワシントンへの出張の折、アーリントン国立墓地に立ち寄ってみたところ、肩書きに「妻」とだけ書かれたキヨの墓を発見する。そこには彼女が国家のために働いたという形跡は一つもなかった。その後、いろいろな文書などにも当たって調べてみたが、彼女のキャリアは完全に世の中から消されていた。

一体、キヨ・ヤマダとは何者なのか。彼女に対する好奇心が止まらなくなり、彼女の人生を掘り起こす取材を始めた――。

キヨが生まれたのは、1922年(大正11年)9月29日。東京市深川区深川東大工町(現在の江東区白河)に暮らす非常に裕福な家庭に、3人きょうだいの末っ子として生まれた。幼稚園から東京女子高等師範学校(現在の御茶ノ水大学)付属に通うような裕福な家庭に育ちながらも、封建的な社会制度のなかで家庭内の居場所を探し続けた。そんな中で、キヨは英語などの教育専門家となる目標を見据え、海外留学を目指す。日米の間に立ち、架け橋になりたいと考えていたという。

そして戦時中に、東京女子大学や東北大学、東京文理科大学(現在の筑波大学)で学んだ後、湘南白百合学園で英語教師を経験。程なく奨学金を得て、ミシガン大学の大学院で英語教育を学ぶために渡米する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国人民銀の金準備、6月は8カ月連続増

ワールド

中国、農村労働者の再教育計画発表 家事サービス分野

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、予想以上に改善 約3年ぶり高水

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中