最新記事

野生動物

世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?

The Call of OR-7

2019年8月16日(金)16時53分
ウィンストン・ロス(ジャーナリスト)

190101or5.jpg

ILLUSTRATION BY DIETER BRAUN


異例の長距離移動で伝説に

99年、アイダホ州のオオカミ専門家カーター・ニーマイヤーは雌のオオカミを捕獲し、発信機を取り着けた。しばらくしてオレゴン州のオオカミ管理チームの責任者から電話があった。いわく、「やあ、お宅のオオカミがうちに入ってきたぞ」。52 年ぶりにアイダホからオレゴンに越境したのは、その雌だった。

オレゴンでOR-2と名付けられたそのオオカミは同州北東部に移動し、08年に相手を見つけた(相手の雄はOR-4)。夫婦となった2頭は群れと共にワローワ山脈に落ち着いた。09年にOR-2は出産。その1頭がOR-7と命名された。

OR-7はもうすぐ10歳。たいていの野生オオカミの2倍の年月を生きている。しかし彼をレジェンドにしたのは「果てしない旅路」だ。餓死せず、銃で撃たれず、車にひかれることもなく「移動し続けている」とニーマイヤーは言う。「オオカミはしばらく群れから離れても、いずれは故郷に戻ると思われていた。しかしこのオオカミは遠く離れたカリフォルニアで、種の急速な回復を推し進めている」

OR-7の遍歴は数多くの新聞が取り上げ、少なくとも3冊の本が出版された。カリフォルニア州は今後何十年にもわたるオオカミの管理計画を立てなくてはならなくなった。

筆者はスティーブンソンと一緒に、OR-7の群れのねぐら近くにあるミルマー牧場に向かった。オーナーのテッド・バーズアイが数日前、周辺でオオカミの遠ぼえを聞いたという。車を走らせながら、スティーブンソンはOR-7に着けた発信機をチェックしたが、やはり反応はない。彼がオオカミを追う理由は、家畜が被害を受けないよう牧場主に警告するためでもある。

オオカミが家畜を襲うのは「もし、の問題ではない」と、バーズアイは言う。「いつ、だ。当然ながら襲う。美しい動物だが、彼らは殺す側。オオカミにはふさわしい場所がある。私の土地は勘弁してほしい」

ただし、バーズアイはオオカミを憎んではいない。動物行動学の職に就こうと考えたが、10年ほど学校で歴史を教えた後に牧場主に転じた。知人にオオカミ繁殖家がいて、死んだ家畜を餌として寄付していたそうだ。代わりに子オオカミをもらい、「17年も飼っていた」という。野生ではとても不可能な長寿だ。老衰で死んだ、とバーズアイは言う。「いい思い出だ」

バーズアイは一度、OR-7を目撃している。彼の牧場の外をのんびり歩いていたという。「私がトラクターを止めると、彼はこっちを見た。それから回れ右して、ゆっくり立ち去った。悔しそうだったな」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中