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米国「勝ち組」都市が示す格差社会の分断 トランプ人気を生む一因に

2019年7月31日(水)11時20分

音楽の街の奇跡か、幸運な偶然か

この10年間に「勝ち組」となった都市の多くには、分かりやすい成功のストーリーがある。米国のエネルギー生産が好況を迎えるなかでの伝統的な石油の街ヒューストンや、テクノロジー全般の中心地であるサンフランシスコなどだ。

ナッシュビルについては、言わずと知れたカントリーミュージックの本場としての名声や、年間を通じて毎晩のように開催されているパーティ文化も、大規模なカンファレンスや見本市を誘致するための武器になっている。これは他の都市では真似しようがない要因だ。

同時に、ナッシュビルの起業家や当局者に対するインタビューからは、同市の繁栄の裏にはさまざまな要因が混在していたことが分かる。その中には、テネシー州独特の所得税制など、市単独では対応できない要因もあれば、ナッシュビル市独自のアセット(資産)に関連する要因もある。

コンベンションセンターの建設という市当局の一世一代のギャンブルからは、政治的なリーダーシップの大切さも見えてくる。FRB当局者やエコノミストらも、こうしたリーダーシップが地方自治体の施策が成功するための重要な条件であると考え始めている。

コンベンションセンターの運営を指揮するトム・ターナー氏は、「(超低金利と建設工事をめぐる企業間の活発な競争のもとで)あれほど低い総工費でセンターを建設することは、二度とできないだろう」と語る。「そうした条件のおかげで、市当局の考え方が変わった。リセッションから回復するなかで、新たな勢いが得られた」。

連邦政府のデータによれば、ナッシュビルの民間セクターの雇用は、全米の雇用が最低水準を記録した2010年の62万2000人から、2017年には約82万人に増大した。全米平均の雇用成長率15%の2倍に当たる。

新規雇用件数で上位40位に入る都市圏では、この期間、雇用が23%成長している。他の都市圏における雇用成長率は約11%であり、都市圏以外のカウンティにおける雇用成長率は約4.5%だ。

出遅れ都市への即効薬なし

FRB当局者は都市・地域間の経済実績のギャップを深刻に捉えている。低金利政策を継続し、今後数週間でさらに利下げを検討することに決めた理由の1つとして、国内の出遅れた層・地域による「追い上げ」のための時間稼ぎという思惑がある。

アトランタ連邦準備銀行のラファエル・ボスティック総裁は、担当する地域のなかで、アトランタのような地区が大きく成長する一方で、他の地区が出遅れている理由に頭を悩ませており、視察や調査のなかでも優先的に解決すべき課題として掲げている。

ボスティック総裁によれば、富の分配を簡単に拡げるような統一的な政策ミックスがあるかどうかは不明だという。

「現状に至る過程については、それぞれの都市に固有のストーリーがある」とボスティック総裁は言う。「このポイントをこれだけの強さで叩けば結果が保証される、といった一般的な公式があるとは思えない」

(翻訳:エァクレーレン)

[Howard Schneider

[ナッシュビル(テネシー州) ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

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