最新記事

格差

女性非正規の半分がワーキング・プアという、令和日本の悲惨な実態

2019年7月24日(水)16時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

シングルマザーを取り巻く状況はとりわけ厳しい(画像はイメージ写真) monzenmachi / iStock.

<法定労働時間で「普通の暮らしができる」かどうか見てみると、女性非正規雇用の厳しい現状は突出している>

参院選が終わったが、選挙ポスターで「1日8時間働けば普通の暮らしができる社会へ」と訴えている候補者がいた。労働基準法では法定労働時間(週40時間)が定められており、これを満たせば勤労の義務を全うしているので当然だ。しかし現実はまったく違っているので、このフレーズが新鮮に思えてくる。

労働時間と給与は相関するはずだ。単純労働や肉体労働が減った今では、他の要素が入り込む余地が多いが、普通に働けば普通の暮らしが保障される社会が望ましいのは変わらない。普通に働く目安が「1日8時間=週40時間」だ。

2017年の総務省『就業構造基本調査』に、週間就業時間と年間所得(税引き前)のクロス表が出ている。そのデータをグラフにすると、<図1>のようになる。所得は200万円刻みの4カテゴリーにまとめた。

mai190724-chart01.jpg

男女とも週35時間で段差があり、それ以降の所得はほぼフラット(変化なし)となる。週40時間も60時間も、所得の分布には大差ない。働く時間よりも、パートタイム(非正規雇用)かフルタイム(正規雇用)かの違いが大きいようだ。

男性の週35~45時間をみると4割ほどが所得400万円未満で、600万を越えるのは4人に1人だ。法定の労働時間の対価がこうなのだが、普通の暮らしができるレベルと言えるかどうかは、判断が分かれるところだ。

右側の女性を見ると、こちらは厳しい印象を受ける。水色と茶色のゾーンが広く、週40時間働いても4人に3人が400万円に届かない。4人に1人は、200万円に満たないワーキング・プアだ。女性の場合、長時間働いても600万円を稼ぐのは難しい。女性を正規雇用と非正規雇用に分けると、もっと悲惨な実態が露わになる<図2>。

mai190724-chart02.jpg

正社員であっても、週40時間労働で400万円稼ぐのは並大抵のことではない。右側の非正規は目を背けたくなる模様で、どれほど働いても半分がワーキング・プア、9割が400万円未満となっている。

非正規はマイノリティかというと、そんなことはない。女性労働者の4割は非正規雇用だ(実数だと755万人)。夫の扶養下で就業調整している人が多いだろうが、この超薄給で生計を立てている人もいる。たとえばシングルマザーだ。

どれほど働いても貧困から抜け出るのは難しい。母子世帯の困窮は、上記のグラフからはっきりとうかがい知れる。女性は男性に扶養されるべしという考えが続いてきた結果だが、21世紀になってもこうした現状とは驚かされる。女性の社会進出は、M字カーブの底が浅くなった(出産・育児期の女性就業率が上がった)とか、そういうことでは測れないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中