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自閉症の原因は食品添加物? 米大学での調査で示唆

2019年7月24日(水)18時50分
松丸さとみ

AlexLMX-iStock

<米大学での調査で、自閉症の原因は、食品添加物かもしれないという研究結果があきらかになった>

食品添加物に含まれるPPAが脳に影響

自閉症の原因は、食品添加物かもしれない──こんな研究結果がこのほど明らかになった。米セントラル・フロリダ大学(UCF)のチームが、1年半にわたる研究の結果を英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。

自閉症と食品添加物の関係を紐解こうと調査を行なったのは、UCFで消化器系を専門に研究しているサレイ・ナサー博士が率いるチームだ。ナサー博士は、自閉症の子どもは過敏性腸症候群で悩まされることが多いと知り、脳と腸が関係しているのではないかと考え、自閉症の子とそうでない子の便を調べた。すると、自閉症の子の便にはプロピオン酸(PPA)が非常に多く見られ、また腸内細菌は、そうでない子と異なることも分かった。UCFの発表文によると、こうしたことからナサー博士は、この根底にある原因を詳しく調べたいと考えたのだという。

そこで研究チームは、ヒトの神経幹細胞を1年半にわたり大量のPPAに暴露するという実験を行なった。その結果から、PPAは脳細胞を損傷することが示唆された。ニューロンが減少し、その一方でグリア細胞が過剰に生成され、脳内のバランスが崩れるのだ。

グリア細胞は、ニューロンの機能を発達させたり、保護したりするものではあるが、多すぎるとニューロン同士のつながりを阻害するようになる。また、脳に炎症も引き起こすこともある。研究チームによると、自閉症の子どもにも見られる炎症だ。また、PPAが過剰になると、ニューロンが体の他の部分とコミュニケーションを取る際に使用する経路が短くなったり、ダメージを受けたりしてしまう。

このようなことが起こると、脳がコミュニケーションする能力が阻害され、自閉症の子に見られることが多い行動(反復行動、他者とのコミュニケーションが難しい、など)が引き起こされる、と研究チームはUCFの発表文の中で説明している。

ヒトの腸内に存在するPPA、過剰だと有毒

PPAは、ヒトの腸内に自然に存在する物質だ。また、食品の保存性を高め、防カビの効果があるとして、パンやチーズなどの加工食品に添加物として使用されている。しかしナサー博士のチームは、過剰なPPAは有毒になり得ると考えている。

加工食品などに使われているPPAを妊娠中に過剰に摂取すると、腸内細菌のPPAが増える可能性があるという。それが胎児の脳の発達に影響し、グリア細胞の増殖、神経構造の異常、炎症の増加などを引き起こし、自閉症のリスクを高める可能性があるのだとナサー博士は説明する。

自閉症の原因は、現在のところはっきりと分かっていない。これまでの研究では、環境的要因や遺伝的要因が示唆されてきた。ナサー博士らは今回の研究により、過剰なPPA、グリア細胞の増殖、神経回路の損傷が、分子レベルで自閉症に関係しているということが、初めて発見されたと話している。

とはいえ、ナサー博士らは臨床的な結論を出すには、さらなる研究が必要だとして、引き続き詳しく調べていく予定だ。米国においてここ20年ほどで自閉症は急速に増加しており、米疾病対策センター(CDC)によると、2000年には子ども150人に1人の割合だったものが、2012年には68人に1人となり、2014年には59人に1人となっている。

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