最新記事

生物

4万年前の線虫も......氷河や永久凍土に埋もれていた生物が温暖化でよみがえる

2019年7月11日(木)18時30分
松岡由希子

シベリアの永久凍土で採取された4万年前の線形動物が活動を再開した The Siberian Times

<自然環境の変化で多くの生物が絶滅するおそれがあるいっぽうで、永久凍土の中で長年休眠していた生物がよみがえる例が確認されている......>

国際連合(UN)は、2019年5月に発表した報告書で「自然環境が減少し、生物多様性が破壊されることで、今後数十年のうちに、およそ100万種の生物が絶滅するおそれがある」と警鐘を鳴らしている。その一方で、近年の研究では、氷河や永久凍土の中で長期間にわたって休眠していた生物がよみがえる例が確認されている。

南極で1600年前のコケが再生した

2013年6月13日に学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で公開された研究論文によると、加アルバータ大学の研究チームが、カナダ最北部エルズミア島で融解がすすむティアドロップ氷河において、1550年から1850年までの小氷期のものとみられるフトヒモゴケなどのコケ植物を採集した。

採集したコケ植物の多くは黒く変色していたものの、緑の部分も確認されている。適温に保たれた日当たりのよい大学の研究室に試料として持ち帰り、養分豊富な土壌に茎や枝の組織を移植したところ、およそ400年にわたって氷に埋まっていたコケ植物が再生した。

2014年3月には、英国南極研究所(BAS)の研究チームが、南極のシグニー島の永久凍土に埋もれていたコケ植物を再生させることに成功した。このコケ植物は1533年前から1697年前のものと推定されている。

この研究論文の責任著者である英国南極研究所のピーター・コンヴェイ博士は、米紙ワシントン・ポストの取材に対し、「永久凍土の環境は非常に安定しており、凍結と融解の周期変化やDNA損傷をもたらす放射線など、地表でのストレスからコケ植物を隔離する。数百年前のコケ植物が再生したことから、生物が氷河期を耐えるうえで、氷河や永久凍土が役立っているのかもしれない」と述べている。

matuoka0711b.jpg

再生した1500年前のコケ(P. Boelen/BAS)

シベリアで3万年前から4万年前の線虫も活動を再開

より古代の多細胞生物が、長い年月を経てよみがえった例もある。2018年7月に公開された研究論文によると、露モスクワ大学や米プリンストン大学らの共同研究チームがシベリアで実地調査を実施。北東部のコリマ低地で更新世の永久凍土の堆積物から3万年前から4万年前の線形動物(線虫)を採集し、室温20度の研究室で育てたところ、活動を再開させたという。

環境破壊や地球温暖化によって多くの生物が絶滅の危機にある一方、極地では、コケ植物や線虫、微生物など、氷河や永久凍土の中で長年休眠していた生物たちがよみがえっている。これらは、生物が持つレジリエンス(困難な状況でもしなやかに適応して生き延びる力)を示すものとして注目されている。

MAGAZINE

特集:香港の出口

2019-8・27号(8/20発売)

拡大する香港デモは第2の天安門事件に? 中国「軍事介入」の可能性とリスク

人気ランキング

  • 1

    日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済にもマイナス 日韓関係の回復を強く望む

  • 2

    韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

  • 3

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 4

    乳がん細胞を脂肪細胞に変えることに成功:バーゼル…

  • 5

    日本の重要性を見失った韓国

  • 6

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 7

    日本人が知らない監視社会のプラス面──『幸福な監視…

  • 8

    韓国航空業界に再編の荒波 アシアナは投資ファンド…

  • 9

    トランプはなぜ極寒のグリーンランドが欲しいのか

  • 10

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道は?

  • 4

    日本の重要性を見失った韓国

  • 5

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 6

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 7

    犯人の容姿への嘲笑に警告 9万件のコメントを集めた…

  • 8

    世界が知る「香港」は終わった

  • 9

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 10

    金正恩が韓国・文在寅政権を猛非難「朝鮮半島情勢緊…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    日本の重要性を見失った韓国

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 5

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 6

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 7

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 8

    デーブ・スペクター「吉本」「日本の芸能事務所」「…

  • 9

    「韓国に致命的な結果もたらす」日韓の安保対立でア…

  • 10

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月