最新記事

顔認証

アメリカの顔認証ゲート......顔写真データは盗難、通過できない客も続出

2019年6月12日(水)18時00分
佐藤由紀子

米国の空港で顔認証システムの導入が進んでいるが...... Thomas Peter-REUTERS

<アメリカの空港で導入が進む顔認証だが、登場手続きがうまくいかなかったり、顔写真データが盗まれたりと、ちょっとしたトラブルが続いている......>

米国では数年以内に、出国する旅客の97%に対して顔認証システムによるチェックが実施されるようになる見込みだ。米国土安全保障省(DHS)は、このシステムは98%の一致率を誇り、不法滞在者摘発などに役立つとしている。

顔認証システムは政府だけでなく、民間企業の間でも採用が進んでいる。米Washington Postのジェフリー・ファウラー記者は6月10日、米航空会社JetBlueの顔認証による登場手続きシステム「e-gate」を体験した記事を公開した。

旅客の15%がうまく通過できなかった

JetBlueは、このシステムにより搭乗手続きが簡易化でき、旅客のストレスを減らせるとしている。旅客はゲートにあるカメラをのぞき込むだけで、ボーディングブリッジに進める。仕組みは、ゲートにあるカメラで撮影した顔写真を、DHSが提供するパスポートやビザの渡航情報のデータと照合するというものだ。

撮影された写真は、一定期間(出国の場合、米国民は12時間、それ以外は2週間)保存された後、破棄される。

ファウラー記者はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港のe-gateで取材した。自身で10回ゲートを通ってみたところ、サングラスを装着した状態を含めてすべて通過できたが、2便分の搭乗をチェックしたところ、旅客の15%はうまく通過できなかった。

JetBlueは、うまくいかない原因として、カメラに顔を向ける時間が短かすぎたり、ひげが生えるなどで照合元の写真と著しく見た目が変わっているケースを挙げた。

顔認証がうまくいかなかった乗客は、結局人間に自分のパスポートを見せることになり、二度手間だ。

自分の顔データを提供した上に手間が増える可能性があることをいとうのであれば、顔認証以外のプロセスをリクエストすることも可能だ。

サイバー攻撃で米国を入出国した旅客の顔写真が盗まれた

本誌米国版によると、企業によるものだけでなく、米連邦政府の顔認証プログラムも、米国民の権利として拒否できるという。その場合は、パスポートの提示などの従来の手続きを行うことになる。

折しもこの記事が公開された同じ日に、国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)が、下請け業者へのサイバー攻撃により、米国を入出国した旅客の顔写真と車のナンバープレートの写真データが盗まれたと発表した。規模は不明だが、流出した個人データは取引され、悪用される可能性がある。

JetBlueは2017年にe-gateのパイロットプログラムを開始した際、将来的には顔認識技術を使って旅客へのサービスをパーソナライズしていきたいと語っていた。それは便利かもしれないが、その便利さと危険性を天秤に掛けると、今のところ積極的には利用したくはない旅客が多そうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港民主派メディア創業者に有罪判決、国安法違反で

ワールド

米、ブラジル最高裁判事への制裁解除 前大統領の公判

ビジネス

中国粗鋼生産、11月は23年12月以来の低水準 利

ビジネス

吉利汽車、2.84億ドル投じ試験施設開設 安全意識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中