最新記事

農業

自然災害に盗難・殺人 銀より高い「バニラ」その知られざる裏事情

2019年6月11日(火)16時05分

6月3日、1キロのバニラは、1キロの銀よりも高価だ。写真は収穫されたバニラのさや。マダガスカル・サバ地区の農園で2018年7月撮影(2019年 ロイター/Clarel Faniry Rasoanaivo)

1キロのバニラは、1キロの銀よりも高価だ。ラン科バニラという植物を何年もかけて丁寧に栽培して収穫されるバニラは、サフランに次ぐ世界で2番目に高価なスパイスだ。

この5年足らずで、バニラの卸売価格は500%近く上昇している。世界的に高まる健康的な天然原料への需要が背景にある。

だが、供給面で問題もある。産地マダガスカルは近年、サイクロンや干ばつ、さらには盗難の被害に見舞われており、バニラの質や生産量が落ちているのだ。アフリカ大陸沖のインド洋に位置するマダガスカルは、世界のバニラの約8割を生産している。

調味料の世界最大手マコーミックにとって、バニラ不足は無視するには大きすぎるリスクであり、インドネシアのパプア州北部を代替の生産地に育てようと栽培に取り組み始めた。小売業者や飲食店、メーカーにバニラを販売しているマコーミックは、コスト上昇分をバイヤーに転嫁していると語る。

基準となるマダガスカル産の黒バニラビーンズVAN-MG-BNS1キロの価格は、520ドル(約5万6000円)程度だ。サイクロン被害を受けた2017年の過去最高価格1キロ635ドルには及ばないが、2015年初めに記録した同87.50ドルから急上昇している。

2017年と18年に連続して受けたサイクロン被害で、「確実にコストを圧迫した」と、スイスの食品大手ネスレ米法人のスティーブ・プレスリー最高経営責任者(CEO)はロイターに語った。

同CEOによると、ネスレは2017年、バニラの価格高騰もあって、米国で販売しているアイスクリーム製品を値上げした。ネスレが製造する「ハーゲンダッツ」や「エディーズ」、「スキニーカウ」などのブランドのアイスクリームは、天然のバニラ香料やバニラビーンズを使用とパッケージに書いてある。

米国外でのハーゲンダッツ販売や、同ブランド店舗を世界で手掛ける米食品大手ゼネラル・ミルズは、バニラ価格上昇で製品価格も上昇していると話す。

マコーミックの調達部門のディレクターを務めるドナルド・プラット氏は、供給問題への取り組みとしてインドネシアに注目していると話す。

とはいえ、それを成功させるのは、簡単ではなさそうだ。インドネシアの年間バニラビーンズの生産量は約100トン程度にすぎず、マダガスカルの2000トンには遠く及ばない、とプラット氏は言う。

他社もマダガスカルに次ぐ生産地を開発しようと試みたが、成功していない。「ベン&ジェリーズ」ブランドのアイスクリームを製造する英蘭日用品大手のユニリーバは、ウガンダでのバニラ栽培に多額の資金を投じたが、失敗に終わった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア産原油、アジア諸国が相次ぎ購入 需要超過の可

ワールド

米オープンAIの広告試行事業、開始6週間で年換算収

ビジネス

ネトフリ、米で全プラン一斉値上げ 広告付きは月額8

ワールド

フランス、米の圧力でG7サミットから南ア除外との見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRANG』に託した想い、全14曲を【徹底分析】
  • 4
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 5
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    トランプが誤算? イラン攻撃延期の舞台裏、湾岸諸国…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 9
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中