最新記事

不法移民

メキシコ、米の「安全な第三国」指定拒否へ トランプの対メキシコ関税はブーメランに

2019年6月4日(火)13時45分

6月3日、メキシコのエブラルド外相は、米国が同国を「安全な第三国」に指定し、米国への難民申請者を移送してメキシコで保護するという案を米国側が提示しても拒否する考えを示した。写真は米国との国境のフェンスを撮影するメキシコの警察官。シウダー・ファレスで5月に撮影(2019年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

メキシコのエブラルド外相は3日、米国が同国を「安全な第三国」に指定し、米国への難民申請者を移送してメキシコで保護するという案を米国側が提示しても拒否する考えを示した。両国の交渉団は3日から移民問題で協議を開始する。

エブラルド外相は、中米からの不法移民が米国との国境に到達するのを防ぐ取り組みを継続的に行う決意を表明。ただ、メキシコを「安全な第三国」とし米国で難民申請する移民をメキシコでの移民申請に強制的に切り替えるという、一部の米当局者が好む案については、選択肢にはないと断言した。

外相はワシントンで記者団に「米国側からはまだ提案されていないが、受け入れることはできない案で、米側もそれを知っている」と述べた。

同外相はワシントンで予定される一連の高官協議でポンペオ米国務長官と会談する予定。トランプ米大統領が発動する構えの対メキシコ関税について、最終的には米国市場に出回る幅広い商品の価格上昇につながるとの懸念もあり、金融市場は協議の行方に注目している。

トランプ大統領は前週、メキシコ国境からの不法移民流入に同国が十分に対応していないとし、6月10日以降メキシコからの輸入品すべてに5%の関税を課し、移民の流入が止まるまで関税率を段階的に引き上げると表明した。

世界の金融市場には動揺が走り、3日の原油先物は、米中および米・メキシコの貿易摩擦が世界的な原油需要低下につながるとの懸念が高まったことで下落した。

メキシコ料理チェーンを展開する米チポトレ・メキシカン・グリルは3日、対メキシコ関税導入によって約1500万ドルのコストが発生するとの試算を示した。

米国の経済団体も関税発動に反対しており、全米商工会議所は法的措置を含む異議申し立てについて検討していると明らかにしている。

米国の優先項目

マカリーナン国土安全保障長官代行は2日、メキシコは不法移民対策としてグアテマラとの国境沿いの国境警備職員を増やすべきと指摘。協議で米国が優先項目として提案する可能性がある。

メキシコのロペスオブラドール大統領は今年に入り、不法移民の拘束と強制送還を強化してきた。ただ、中米グアテマラやホンジュラスなどから米国に向かう移民の流れは阻止できていない。

米当局者によると、8万人の不法移民が収容所で拘束されており、4月には中米などから10万人以上が米国境に到達、米国境警備職員の手に負えない状況となった。

メキシコは昨年12月に米国に難民申請する不法移民をメキシコで待機させる米政府の方針を受け入れた。これまでのところ8835人がメキシコに移送されている。

メキシコ経済は米国向け輸出への依存度が高いため、制裁関税が発動されれば影響は大きい。トランプ大統領は関税率を最終的に25%まで引き上げる可能性があるとしている。

ゴールドマン・サックスのエコノミストらは6月10日に5%の対メキシコ関税が発動される確率は70%と予測した。

米政府統計によると、2018年のメキシコの米国向け輸出は3470億ドルに上っており、5%の関税は6月10-30日の期間に約10億ドルの税負担が発生することを意味する。

メキシコのセアデ外務次官(北米担当)は移民問題を巡る対立は北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定の批准を妨げる可能性があると警告している。

ゴールドマン・サックスのエコノミストらは新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」が年内にカナダを含む3加盟国による手続きを経て批准される確率を60%から35%に引き下げた。

[ワシントン/メキシコ市 3日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、高金利で住宅不況も FRBは利下げ加速を=財務

ワールド

OPECプラス有志国、1─3月に増産停止へ 供給過

ワールド

核爆発伴う実験、現時点で計画せず=米エネルギー長官

ワールド

アングル:現実路線に転じる英右派「リフォームUK」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中