最新記事

天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶

浙江省で既に小工場30%が倒産──米中経済戦争の勝者がアメリカである理由

2019年6月4日(火)16時45分
長岡義博(本誌編集長)

米中貿易戦争の影響は既に中国経済に及び始めている(浙江省にある工場) REUTERS

<天安門事件から30年。驚異の発展を続けてきた中国にトランプのアメリカが立ちはだかる。アメリカに亡命した民主活動家が語る米中貿易戦争の結末は>

中国政府が民主化運動に参加した学生や市民を弾圧した天安門事件から30年がたった。民主化を捨て西側社会から経済制裁を受けた中国は、事件後こそ一時混乱したが、その後安価な労働力を武器に日本やアメリカ、ヨーロッパを懐柔。世界の屋台骨を担うと言われるほど経済発展し、5Gなど技術力の分野でもアメリカに迫るようになった。

しかし、最近では中国の国力増大を脅威と感じるアメリカのトランプ政権と、これまでになく厳しい貿易交渉に直面。5G技術で世界をリードするファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)もアメリカからまさに「締め上げられて」いる。

6月4日発売のニューズウィーク日本版では「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集を組み、天安門事件から30年の驚異的成長と米中衝突に至った地政学的変化を分析。当時を知るイタリア人元留学生の回想録や、現代中国の知られざる変化をレポートする記事も収録した。

ここでは、来日した元民主活動家である陳破空(チェン・ポーコン)氏に、米中の衝突の行方をどう分析するかについて話を聞いた。陳氏は1989年の天安門事件に広東省の広州から参加し、その後2回投獄。96年にアメリカに亡命し、現在はニューヨークで政治評論家として活動、独自の中国政治評論で知られる。

◇ ◇ ◇

――「米中貿易戦争」の結果をどう予測する? 最終的に「勝利」するのはどちらか。また、その根拠は?

現在の状況を見る限り、アメリカが「勝ち組」、中国が「負け組」だ。貿易戦争とアメリカによる関税率上昇について考えるとき、まず米経済と中国経済のパフォーマンスの差を理解する必要がある。米経済は正常かつ強靭であり、株価こそ揺れ動いているが、就職率は高く、失業率は過去5年間で最も低い。給与や収入も増えている。株価も総体的には上向いている。

一方、中国経済は坂道を下っている。中国政府は経済が6%成長していると主張しているが、このデータを外部の人間が確かめることはできない。ただし彼ら自身が経済にプレッシャーがあることを認めている。

その第1は外資が中国から撤退していること。第2は工場の倒産。沿海部で工場閉鎖が相次いでいる。アメリカが関税を上げるたびに工場が潰れている。浙江省では昨年関税率が上がった後、外国貿易に関係する小規模工場の30%が倒産したとされる。最後が労働者の失業だ。外資が逃げ出し、製造業が東南アジアやインドに移ったので、中国の労働者は職を失っている。

中国の私営企業は経営が難しくなっている。貿易戦争の影響で、政府の支援が国有企業に回っているからだ。中国の株式市場とアメリカの株式市場も違う。中国の市場は時に上昇はするが、その基調は「熊市(ベア・マーケット、弱気市場)」。対するアメリカは「牛市(ブル・マーケット、強気市場)」だ。

【関連記事】共産党にひざまずき、少数民族を見下した「天安門事件」の闘士たち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中