最新記事

天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶

浙江省で既に小工場30%が倒産──米中経済戦争の勝者がアメリカである理由

2019年6月4日(火)16時45分
長岡義博(本誌編集長)

――この争いはいつ終わるのか。

中国はアメリカよりも話し合いを急いでいる。これまで中国は長期戦を望んでいると考えられてきたが、今はそうではない。アメリカが関税を上げながら交渉をすると、中国は長期戦に耐えられない。

アメリカが関税率を凍結して話し合いをするのなら中国は長期戦を望むが、関税率が上がったまま話し合いをしても中国にメリットはない。その間に多くの外資が撤退し、多くの生産施設が閉鎖してしまうからだ。内部情報を見ると、習近平(シー・チンピン)政権は話し合いへの復帰を急いでいる。ファーウェイへの打撃も大きい。中国がアメリカの要求を全て満足させることができれば話し合いは始まるが、そうでなければ動かないだろう。

最大の問題は、中国が双方の話し合いの結果が反映された法律の改正を望んでいないことだ。もし法律が改正されたら、アメリカの企業が中国で不公平な扱いを受けた時、訴えることができるようになる。中国企業がアメリカ市場で不公平な扱いを受けた時に訴訟できるのと同じだ。中国の企業はアメリカや日本、ヨーロッパの訴訟で公平な扱いを受けられるのに、アメリカ企業が例えば知的財産権を中国で盗まれても絶対に訴訟では勝てない。もし法律ができれば、欧米企業だけでなく中国の私営企業にとっても公平になる。

しかし、習近平はこれをアメリカとその企業の要求にだけ応える国務院令でしのごうとしている。そうすれば他の国の要求に応えなくて済む。彼は私営企業が力を増すことも望んでいない。なぜなら経済的な力量は将来、政治的な力量に変わるから。その結果、国有企業を通じて中国経済の命脈をコントロールしようとする政府の意図は失敗する。「一党執政」は中国共産党が譲れない最低ラインだ。

この一線を越えることができなければ、米中の合意は難しい。劉鶴(リウ・ホー、副首相、米中交渉の責任者)が挙げている中国のアメリカからの輸入拡大などの問題はいずれも表面的な理由に過ぎない。本当の理由は、米中合意の法律化だ。

もう1つ、米中が一致できない部分がある。アメリカは双方が合意した全ての文章を公開することを求めている。中国は全文の非公開を要求している。あくまで概要だけだ。彼らは全文が公開された後、中国国民が政府の大幅譲歩を知って怒り出すことを恐れている。アメリカ以外の全世界の国に知られることも恐れている。公開さえしなければ、将来アメリカに好き放題文句を言うこともできる。

中国は判断を誤った。彼らは当初、トランプは貿易交渉で妥結したがっていると思っていた。なぜなら妥結すればトランプの再選にいい影響があるからだ。しかし交渉が妥結しなくてもトランプの再選にとっていい影響がある。アメリカの共和党も民主党も中国経済に反撃することを支持している。実際、トランプが関税を上乗せした後、米経済は上向き、中国経済は下降している。これはトランプの再選の助けになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米陸軍長官、週内にキーウ訪問へ=ウクライナ大統領府

ワールド

米財務長官、FRBの金利管理システムを批判 「簡素

ワールド

EU、フィンランドに対する財政赤字是正手続き提案を

ワールド

OPECプラス30日会合で生産方針維持か、重点は各
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中