最新記事

中国

中国の逆襲「レアメタル」カード

2019年5月31日(金)11時51分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

習近平の江西視察に合わせて、5月20日、人民日報は「中美貿易戦 極限まで外圧を掛けても無駄だ」という論評を出して、「歴史を思い出せ」と「新長征への道」を示唆した。

このコラボレーションを中国流に翻訳すれば、「(日本軍という外圧に対して)中国人民は長征を乗り越えて最後に勝利を手にしたように、今はアメリカという外圧と闘って『新長征への道』を歩み切り、最後には勝利を手にするのだ」となる。

なぜ習近平は多忙のスケジュールの中、ふと江西省視察に3日間も費やしたかと言うと、この中国流翻訳のメッセージを発したかったからである。

もう一つのメッセージ:「レアメタル」のカードを切るぞ!

さらに注目すべきは、同じ日(5月20日)に、習近平は江西省かん州市にある「江西金力永磁科技有限公司」を視察している。この企業はなんと、中国最大のレアメタル(&レアアース)の一つであるタングステンの産業基地なのである。そのため、かん州市は「レアアース王国」とか「世界タングステンの都」などと呼ばれている。

この事実こそが重要で、「習近平総書記・国家主席・軍事委員会主席が、レアアース産業の発展状況を視察するために訪れた」と新華網や人民網が伝えている。この写真の左端に、米中貿易交渉団を率いた劉鶴副首相の顔があることも、実はポイントだ。これが「江西視察」は「米中貿易戦のためだよ」というメッセージを黙って裏付けるファクターの一つになっている。

ちなみに、レアメタルは47(+2)種類の希少金属から成っており、その中の17種類はレアアースという希土類なので、レアアースはレアメタルの中に含まれる。レアアースの方が、レアメタルより「レア」(稀、希少)であり、価値が高いことになる。

日本では、「レアアース」という言葉より「レアメタル」の方が普遍的に知られているようなので、コラムのタイトルも小見出しも「レアメタル」としたが、中国が世界の70%を占めているのは、最も「レア」なレアアースだ。もちろんレアメタルの産出量も中国が圧倒的に多い。

アメリカはレアメタルの約75%を中国からの輸入に頼っていると中国側は言っている。となれば、中国が「レアメタルの対米輸出を禁止する」とひとこと言えば、アメリカのハイテク製品および武器製造は壊滅的打撃を受ける。何も作れなくなると言っても過言ではない。  「アメリカの完敗が待っている」と、中国のネットは燃え上がっている。

「えっ、中国にもこんなすごいカードがあったの?!」

ところが、この「ひとこと」を5月28日に環球時報が報じた。最初は胡錫進編集長がツイッターで「その可能性がある」という程度につぶやいただけなのだが、アメリカのメディアは、飛び上がるほどに驚き、その情報を受けて、又もや中国のネットも炎上した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国外為当局と年金基金、通貨安定と運用向上の両立目

ワールド

香港長官、中国の対日政策を支持 状況注視し適切に対

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中