最新記事

日韓関係

徴用工問題で日韓が近づく危険な限界点

Nearing the Point of No Return

2019年5月14日(火)16時20分
J・バークシャー・ミラー(日本国際問題研究所上席客員研究員)

戦時中の個人賠償をめぐっては、いわゆる従軍慰安婦の問題も日韓関係をむしばみ続けている。両国政府は15年、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決する」とする日韓合意を結んだ。ところが、このとき大統領だった朴・槿恵(パク・クネ)が弾劾されて、文政権が誕生すると、たちまち慰安婦問題が息を吹き返した。

かねてから日韓合意に批判的だった文は、日本政府が拠出した10億円の基金を元慰安婦や遺族に支払う財団を解散させると発表した。つまり、消極的にでも日韓合意を維持しながら新たな解決策を探るのではなく、合意の枠組みそのものを解体してしまったのだ(本人はそんなことはないと言い張っている)。

歴史問題をめぐるいざこざのタネは、歴史教科書の記載からリアンクール岩礁(日本名・竹島、韓国名・独島)の領有権、さらには韓国ポップスターの原爆Tシャツまで、ほとんどエンドレスに出てくるように見える。険悪なムードが支配的になるなか、日韓政府の対話はストップしてしまった。

18年2月に安倍晋三首相が平昌冬季五輪開会式に出席するために韓国を訪問し、同年5月に文が日中韓首脳会談のために初訪日するなど、安倍・文の信頼醸成を期待する見方も一時はあったが、そうした楽観論は完全に吹き飛ばされた。歴史問題をめぐる不信感の高まりが両国関係の決定的な要因になるなか、両国政府は正反対の方向に向かって歩んでいる。

だが、日韓関係を安定化させることは両国のためだけでなく、アメリカにとっても著しく重要だ。北朝鮮の挑発行為を抑止する上で、日本と韓国はアメリカにとって不可欠な同盟国であり中国の戦略的挑戦に対処する上でもアメリカは長年、日韓の協力強化を希望してきた。

最悪のシナリオを避けろ

残念ながら、現在の米政府には日本と韓国の関係をとりなす意欲はほとんどない。米トランプ政権は、日本と韓国それぞれと個別に関係を構築するアプローチを好んでおり、北朝鮮とその核開発計画への対応でも日米韓の3カ国が協力する重要性を小さく見ている。

日韓関係を修復する簡単な方法はないだろう。しかし今は試さなければならないときだ。

日本政府が徴用工賠償判決を懸念するのはもっともなことであり、文政権はその懸念にきちんと対応するべきだ。韓国にある日本企業の資産や債権が強制的に売却されるのは最悪のシナリオであり、両国関係を修復不可能な領域に進ませる恐れがある。文は大統領として思い切った宣言を発表して、この破滅的なシナリオが現実になる可能性の芽を摘み取るべきだ。

そのような宣言は、裁判所の判決を尊重しつつ、現実的な問題解決に寄与する独創的な方法をもたらすだろう。例えば鉄鋼大手のポスコなど、日韓請求権協定に基づき、日本政府から賠償金を受け取っている韓国企業に賠償の一部を負担させる方法もあるだろう。一方、日本企業は訴えを起こした元徴用工に対して、法的な賠償金ではなく、あくまで自発的な支援金を支払うなど、象徴的な誠意を示すことができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANA、エアバス機不具合で30日も6便欠航 2日間

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 A

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 5
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中